NATO・リトアニアの事例 対露情報戦略を見直せ
ロシアからの攻撃増加
今、世界は情勢の変化に限りなく翻弄(ほんろう)されている。事が起こって分析を急ぐのが精一杯であり、先手を打てずにいる。
戦略の練り直しを迫られている北大西洋条約機構(NATO)の動きおよびリトアニアのサイバー動向を取り上げ、我が国への示唆としたい。
2004年、バルト3国は欧州連合(EU)およびNATOへの加盟を遂げた。経済的繁栄、また、安全保障強化のために欧州への回帰を果たした。が、依然として歴史上、地政学上、常に隣国の脅威による緊張の真っただ中にあり、サイバーセキュリティーを含め、防衛力の強化に励んでいる。
14年のロシアのウクライナ侵攻以来、武力行使をためらわない彼らに、東欧、とりわけリトアニアは警戒を強めている。ロシアの飛び地であり、欧州で最も軍事化されているカリーニングラードが、リトアニアのすぐ西に位置しているからだ。(スターリンが当時リトアニアとポーランドの間にくさびを打ち込んだ)。これがバルト3国のNATO加盟の主な理由でもある。
エストニアに対する08年のサイバー攻撃時に、リトアニアはエストニアと合同でロシアを非難した。直後、リトアニアは300もの同政府機関や軍のウェブサイトがソ連の赤地の国旗に改変されるというサイバー攻撃に遭った。画面ではリトアニアを排斥する歌が流れ続けた。
今年7月のNATO首脳サミットでは対露脅威、サイバー空間の防衛強化が議題であった。その1週間後、リトアニアでは国家サイバーセキュリティーセンターが開設された。バルト3国におけるサイバー脅威を抑える狙いだ。リトアニア通信規制庁のデータによると、去年、4万件以上のサイバー攻撃が発生し、14年よりも15%以上増加している。今年16年には大統領執務室、統合参謀本部、議会のウェブサイトに大規模なサイバー攻撃が仕掛けられ、海外からのアクセスが不能となり、外務省も同様の被害を受けた。
リトアニアのセキュリティー専門家たちは、特に国内の重要インフラや機密事項を狙った国家安全保障を脅かすサイバー攻撃が増加していると言う。これら攻撃のほとんどが同国の東の諸国、とりわけロシアからのものという解析に至っている。同国の国家安全保障戦略やサイバーセキュリティー法といった戦略的文書の中で、サイバー攻撃は隣国からとった外的要因によるものと言及している。また、リトアニア国家安全保障局は同文書上で、ロシアによるサイバー空間でのインテリジェンス活動は今後ますます拡大し、サイバー攻撃数が増加すると予想している。
自国のみで対応は無理
米国との強い連携をとっているバルト3国だが、岐路の今、奇(く)しくも米国の共和党大統領候補がNATOの集団自衛について見直す発言をしている。リトアニアを含むバルト3国が今後いかに安全保障上の緊張と揺さぶりに耐え、NATOに貢献度の可視化ができるのか。エネルギーをロシアに全面依存している彼らにとって、レバレッジが皆無といっても過言ではない。ロシアは軍事面と合わせて、手段を政治、経済、情報操作、サイバー攻撃等広域にわたり自国の政治的目標を達成する狙いがある。
集団防衛機構であるNATOがロシアのサイバー空間上を含むプロパガンダにどう立ち向かうのか、また、EUはどういったアプローチを取るのか。
NATOは軍備増強だけに焦点を置くのではなく、プロパガンダにある言葉遣いを一つ一つ解析する同盟国間の認識を高めることも、攻撃されやすい国々を安心させるのではないか。
国際政治は熾烈(しれつ)だ。我が国においても世界をよく見つめ、先手を打つことが求められている。自国のみの対応では現実として解はない。リトアニアを含むバルト3国からロシアが見えてくる。我が国への大きな示唆となる。