スポーツと集中力 リラックスで優勢な脳波

パフォーマンス高める

 リオデジャネイロ・オリンピック、同・パラリンピックの代表選手選考が進行中であった6月25日の日本陸上競技選手権大会の100㍍決勝は雨の中で行われた。悪天候に日本人初の9秒台への期待はしぼみ、桐生選手と山県選手の直接対決に注目が集まる中、両選手の間を突き刺すようにケンブリッジ飛鳥選手が鋭い追い上げで2位の山県選手を制して優勝し、代表入りを決めた。力むことなくしなやかに伸びやかな走りであった。

 思いがけない第三の選手の出現に驚く周囲の反応と対比して、優勝者の晴れやかな自然な笑顔が印象的であった。心の有り様ひとつで予測に反して結果が変わるのがスポーツの怖さであり、おもしろさでもあろう。それまでの長い苦しい練習の成果が、大事な試合のほんの数秒で決まるのである。その数秒でどれだけ日頃の実力を発揮できるかは、大事な場面でどれだけ集中できるかというメンタルとコンディショニングにかかっている。

 スポーツ種目の中で特に集中力が重要であると思われる種目としては、射撃や弓道やアーチェリーなどのターゲット型競技が挙げられる。これらの選手を対象とした集中力に関する様々な研究から、競技成績の高い選手はそうではない選手よりも、集中力・注意力が優れていること、1~2週間のリラクセーショントレーニングによって集中力成績が上昇し、競技成績の向上もみられること、トレーニング終了後もしばらくはその効果が保持されていること、競技種目によって集中力の高低に違いがあること、などが明らかになった。

 さらに、脳波研究からは、注意集中状態時に優勢となる特有の脳波があり、リラクセーション状態時にも非常に似た脳波の現れ方となる。スポーツ選手の脳波を検査すると、競技成績の良い時にはその特有の脳波が優勢になることが分かった。また、一般人の場合でも、呼吸法や自律訓練法や瞑想(めいそう)などのリラクセーションスキルを行うと、特有脳波が優勢となり、これらのトレーニングの継続によりさらに脳波出現が増強されることも確認された。これらのことから、集中とリラクセーションはまったく異なる状態であると捉えられがちであるが、実は非常に関係があることが示唆された。

 スポーツや運動で身体を動かしている時、どれくらい力を入れているだろうと調べてみると、意識して力を入れている時というのは、意外に少ないことに気づく。むしろ気合が入りすぎたり緊張が高い時には、よけいな力が入ってパフォーマンスが低下することもある。スポーツ場面で高いパフォーマンスを発揮するためには、力を抜く、すなわちリラックスすることが大切だとわかる。

最適な力の強弱で集中

 しかし、どのようにリラックスするかという質と量が重要である。射撃や柔道などの決まった的や相手に注意を払う狭い集中力を必要とする競技だけでなく、バスケットボールやラグビーのように動いている中で多くの刺激の中からその時々に必要な情報をすばやく感知して反応する、広い集中力を必要とする競技も多くある。

 高い競技力を有するアスリートたちは、日頃のスポーツのトレーニングを通して、競技場面に最適な力の強弱のつけ方を身につけ、その集中力に磨きをかけている。

 まもなく高校野球やオリンピックなどで、すぐれたパフォーマンスを存分に見ることができる贅沢(ぜいたく)な時期がくる。トップアスリートたちの集中の様子に注目して私たちの日常の行動に生かすことができれば、スポーツ観戦と行動改善が一挙に図れる、さらに有意義な夏となることだろう。