海外サイバー戦争動向 “戦闘”能力を蓄える各国


国家主導でパワー強化

 この数年、我が国のサイバーセキュリティーの対応姿勢には2020年のオリンピック・パラリンピックの開催を見据えた著しい進化が見られるが、各国同様、脆弱(ぜいじゃく)性の解決にはいたっていない。日米防衛協力の新たな指針内容は、日米の相互防衛がサイバー空間にも拡大することを含んでいる。サイバー空間における日米の相互防衛のあり方は、安保新法制をめぐる憲法解釈の見直しで自衛隊の役割や自己防衛の範囲の再定義にも関わる。

 米国のサイバーコマンドは2010年以来、陸、海、空、海兵隊の4軍それぞれのサイバー部隊を統括する司令部の役割を持ち、軍のサイバー攻撃専門部隊の存在を内外に示している。国土安全保障省を始めとする政府機関がサイバー空間における脅威に本気で対応する構図だ。

 今年春、米国はサイバー戦争に対応するための新サイバーセキュリティー戦略を打ち出した。仮想敵国としてサイバー攻撃能力を持ち、米国の軍事目標及び重要インフラに対するサイバー偵察活動に従事する中国、ロシア、イランと北朝鮮が明記されている。米国のサイバーコマンド創設後、韓国、北朝鮮、英国、そして中国も1年後にサイバー戦争部隊を構築している。

 中国はサイバー戦争力を持つ三つの部隊を抱えている。軍ネットワーク部隊、中国国家安全部や公安部などの組織からなる軍公認のネットワーク部隊、そしてネットワーク戦のために組織されている外部団体で結成されている。ロシアのサイバー戦部隊は指揮統括システムを狙っている。

 NATO(北大西洋条約機構)もこの数年サイバー戦争への対応準備に余念がない。重要インフラはネットワークで繋(つな)がっているため、サイバーの大きな脅威となっている。米国司法省は米国企業の防衛機密に不正アクセスしたとされる中国の人民解放軍将校5人を訴追した。この事例は、重要インフラだけではなく、サイバー攻撃による知的財産の窃盗は国家の重大な安全保障の危機に直結するという米国の深い懸念を表している。

 先日の米中首脳会談でも当課題は主要な議論の一つであった。経済関係が不安定である限り、外交で摩擦が起こり、政治的な対立に発展する。サイバー攻撃は従来の武力行使と比べてコストがかからず、戦場が不要、攻撃元を追跡することが難しい。国家主導でサイバーパワーを強化している由縁だ。エスカレーションを緩和するルール作りのための議論がなされているが、国際合意は未だ得られていない。

技術でなく政治的課題

 サイバー空間はグローバルコモンズではない。例えるならば、土地は共同所有でもマンションの居住者たちの互いの協力体制が欠如している空間である。マジノ・ライン(*)を敷くだけでは良い戦略とは言えない。サイバーセキュリティーは技術が主要となる問題ではない。政治的な課題であり、外交及び軍事での戦略的な対応が求められる。

 純粋な防衛戦略ではサイバーエスピオナージもサイバー犯罪も抑止することはできない。サイバーセキュリティーの促進には、友好国も対立国もそのどちらでもない国との交渉が必須であり、時間もかかる。

 今年6月に発覚した、日本年金機構等への一連のサイバー攻撃元は中国系組織が関与している疑いがある。我が国もサイバー攻撃を仕掛ける国々に強く働きかけ、やめるように説得できるだけの外交努力が必要だ。力では何も動かせない、もっと言えば忍耐強く、心を入れた対話を続けるしかない。国家の振る舞い(規範)にかかる国際的合意がなければサイバーセキュリティーは存在しない。

 *第2次世界大戦前に仏が独国境に築いた防衛ライン。難攻不落と言われたが独ナチ軍により一挙に破られた