北朝鮮は人権蹂躙国 欺瞞戦術に騙されるな

国連決議への悪あがき

 欧州連合(EU)と米国は9月の国連総会で北朝鮮を「最悪の人権蹂躙国家」と規定し、12月には金正恩(キムジョンウン)労働党第1書記など責任者の処罰を促す決議案の通過を準備している。同決議案は国連北朝鮮人権調査委員会(COI)が公式に調査した報告書に基づいたもので、金正恩などを人権弾圧の最高責任者と規定し、国際刑事裁判に付託することを勧告している。

 これに対し北朝鮮は同決議案の通過を阻止するために全方位外交を繰り広げている。2014年9月、李洙★〈土ヘンに庸〉(リスヨン)外相が外務トップとしては15年ぶりに大急ぎで国連に向かったほか、外交通の姜錫柱(カンソクチュ)労働党国際担当書記が急遽EU本部やドイツ、ベルギー、イタリア、スイスなどを歴訪し、北朝鮮の立場を説明した。

 李外相は、国連演説で人権弾圧を否認し、李東一国連次席大使なども「米韓軍事演習と国際社会の経済制裁こそが北朝鮮人権の妨げとなっている」(10月17日、国連本部)と誤魔化している。

 このような悪あがきにもかかわらず、国連など国際社会の反応は冷ややかであり、李外相と姜書記の外交努力も効果を上げることができなかった。

 北朝鮮は昨年、張成沢(チャンソンテク)を処刑した後、中国との関係が政権発足以来、最悪の状態になり、習近平中国国家主席は北朝鮮よりも先に韓国を訪問(14年7月)し、金正恩の訪中が想像もできないほど、関係が悪化している。

 10月4日、黄炳瑞(ファンビョンソ)など、北朝鮮の最高実力者3人が仁川アジア大会の閉幕式に出席するため訪韓し、関係改善を約束したが、その後、北方限界線(NLL)と軍事境界線(MDL)で銃撃戦などが相次ぎ、南北関係の急速な改善は見通しが立っていない。

 北朝鮮が今春から拉致被害者交渉を口実に日本に接近したのも、今の孤立状態と政権の危機から脱出しようとする動きだった。しかし、日朝間の拉致被害者交渉においても、北朝鮮の欺瞞(ぎまん)戦術は全く成果を上げていない状態だ。

 14年3月から日朝はスウェーデンや北京などで外務局長級交渉を行って、拉致被害者再調査をすることで合意していた。日本は北朝鮮側の約束だけを信じ、7月3日に対北制裁の一部を先に解除してしまった。

 現在、日本政府が把握している公式拉致被害者数は17人であり、既に帰化した5人を除いた12人の送還を要求しているが、北朝鮮は、「12人のうち4人は北朝鮮に入国したことがなく、横田めぐみ氏を含む8人は既に死亡した」と主張している。

 代わりに、日本政府が認定した拉致被害者ではなく、「戦後、北朝鮮へ渡った日本人妻や特定失踪者などに関連した内容を1次調査結果に含めることはできる」という見解を北朝鮮は明らかにした。これは、北の典型的な「論点すり替え」手口であり、日本政府は注意しなければならない。

 結局、北朝鮮は14年5月から拉致被害者再調査という名目で制裁緩和を手に入れた後、「生存拉致被害者はいない」と言い張っているわけだ。安倍政権は北朝鮮の欺瞞的交渉戦術が分からず、拉致被害者送還も実現しないまま、軽率に制裁を解除したという非難は免れないだろう。

「拉致」問題交渉は浪費

 日本は、北朝鮮に対する日米韓の足並みが乱れるという周辺国の懸念にもかかわらず、拉致被害者問題解決のために北朝鮮と手を組んだ。安倍首相は、北朝鮮の中間報告の時点に合わせて専用機で北朝鮮に行く準備をしていたという。もし日本政府が北朝鮮との交渉の際に、韓国と緊密な協議をしていたならば、こうした事態を招くことはなかっただろう。

 日本は北朝鮮の欺瞞戦術に余計なエネルギーと時間を浪費すべきではない。日本が大規模人道支援を行っても、それはほとんど金正恩の独裁体制を強化することにつながるということをはっきり自覚しなければならない。(敬称略)