続くオリンパスの醜聞 粉飾訴訟損失補う肩叩き
優秀な開発者の不遇
「訴訟引当金を特別損失として170億円計上――」
昨年秋、オリンパスについてこんな記事が掲載されたことがある。
当時、同社は発覚した粉飾決算を巡り、機関投資家など3件から訴えられ、訴訟損失引当金を特別損失として計上せざるを得なくなったという。
しかも訴訟の数はそれにとどまらないというのだから、何をか言わんやだ。
昨年1月、筆者は「オリンパスもう一つの醜聞」として、一人のオリンパス社員の人事騒動を記事にした。当時、IMS事業部・工業用内視鏡国内販売部門に勤務する濱田正晴氏の問題で、彼はその部門に異動してきたばかりの時だった。
早速、彼は取引先のS社へ、御礼を兼ねた挨拶(あいさつ)に出向いた。ワンセットで2億円もする高額な工業用内視鏡を納入させてもらったばかりの時だった。ところがS社の幹部は、濱田氏の挨拶を受けるどころか、怒りと恨み節を濱田氏にぶつけたという。
それは濱田氏の前任者がS社から人材を引き抜き、さらにもう一人の人材を引き抜く工作を企んでいたことにあった。
そこで濱田氏は悩み苦しみ、結局会社のコンプライアンス室に飛び込み、会社側の不正を訴える。しかしそれが裏目に出て、濱田氏は左遷人事の憂き目に遭い、畑違いの閑職へ押し込められる。もちろん彼はその不当を裁判所へ訴え、いま現在、すでに第4次裁判に入ったが、降格、減給にもめげず闘い続けている。
2012年秋、当時、オリンパス開発四部に所属し、内視鏡などの開発に携わっていた石川善久氏は、上司から早期退職勧奨を受けた。退職する気がなかった石川氏は、それを断った。ところが上司の勧奨は執拗(しつよう)で、5回に及んだという。
当初は優しいネコなで声で「無理しなくともいいんだよ」といっていた上司が、回を重ねるごとに言葉が荒くなり「あなたには仕事がない」「近い将来異動してもらう」と居丈高の言葉になっていく。
開発者として数々の商品開発に携わり、仲間からは「石川さんがいなければできなかった」といわれた商品もいくつかあり、開発業務において取得した特許は9個、日米欧でデザイン賞に輝いた商品開発にも携わっている。
その開発者に対し「あなたの働く場所がない」「1週間後に返事をくれ」という。大きくプライドを傷つけられ、迷ったこともある。が、石川氏は辞めるつもりはなかった。その時の気持ちを石川氏は次のように語っている。
「殺してもいないのに人殺しを認めてしまう冤罪事件がありますが、その気持ちがよくわかりました」と。
それほど部長の言葉は執拗だったということだろう。
その結果、石川氏は開発部門から外され新しい部門へと異動させられる。それが彼のキャリアとは全く無関係の品質環境教育グループ。もう6年以上も前から、その人事処遇を巡って会社と対立し、裁判を係争中の濱田正晴氏が左遷され、在籍している職場であった。
「なぜ濱田さんの部下なのか、全くわからない人事だった。濱田さんとは机を並べるのも初めてだし、キャリアも専門も全く違う」と戸惑いを隠せなかった。見方によれば座敷牢(ろう)への押し込めともいえた。
もちろんこの不当人事に石川氏は反発し、2013年7月、オリンパス株式会社と小暮歳雄コーポレートサービス本部長を、提訴に踏み切ることになる。
ドル箱商品に胡座
オリンパスはカメラや内視鏡を手掛ける名門光学機器メーカー。中でも医療用内視鏡は世界で7割のシェアをもつ。経営者たちはそのドル箱商品の前で胡坐(あぐら)をかき、財テクという博打(ばくち)を打って巨大な損失を作った。その損失を補うために濱田、石川などの働き蜂は、働く場所を奪われようとしている。