無責任な共産党の暫定政権構想 筆坂氏が講演

世日クラブ

「民共」協力と参院選の行方

元参議院議員 筆坂秀世氏

 元日本共産党ナンバー3で元参議院議員の筆坂秀世氏はこのほど、世界日報の読者でつくる「世日クラブ」(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)で「『民共』協力と参院選の行方」と題し講演を行った。その中で、筆坂氏は、参院選のすべての1人区で野党候補の一本化が実現した背景について分析。今後の国政選挙でも協力の芽を残すために、共産党は必死に民進党候補を支援するだろうと語った。以下はその要旨。

選挙協力発案者は不破氏/下り坂の民進党に恩義売る
野党候補一本化リードした共産党

 次の参院選の32の1人区で野党候補が一本化した。もちろん野党間にも温度差があるが、とにもかくにもお互いに応援し合うという体制ができあがった。これは画期的なことだ。おそらく当事者たちにとっても想定以上のことだっただろう。共産党がこれを完全にリードした。

筆坂秀世

 ふでさか・ひでよ 1948年生まれ。兵庫県出身。高卒後、三和銀行に入行。18歳で日本共産党に入党、国会議員秘書を経て参議院議員2期。書記局長代行、常任幹部会委員、政策委員長などを歴任。2003年に議員辞職。05年、離党。著書に「日本共産党」「日本共産党と中韓」など。

 共産党は、暫定政権構想をこれまでに何度も出してきた。60年安保の時や田中金脈の時、リクルート事件の時もそうだった。しかし、今回の政府構想はそもそも無責任だ。安保法制を廃止したら直ちに解散して、もう一度政府を作り直すと言うが、これでは政治が混乱するだけだ。世界の国にも暫定政府構想はあるが、各党がバラバラでどこも政権を取る力がないという時に、いわば奇策として出てくるのが暫定政府構想だ。今の自公政権に不安定なところがあるのか。わざわざ混乱させる暫定政府を作ろうというのは、そもそもまともな構想ではない。

 ただ、今回は今まで共産党が出した提案と違うところがある。一つは選挙協力を呼び掛けたということ、もう一つは自分たちの自前の候補は下ろしてもいいと言ったことだ。

 共産党は、ほとんどの選挙で候補者を全部立ててきたが、供託金の没収が、かなりの額になっている。躍進した3年前の参院選の時でも1億1千万円、一昨年の衆院選では8億円以上だった。

 次の参院選では、共産党は32選挙区の1人区のうち1人しか候補者を出さない。共産党は決して金持ちな政党ではない。今、どんどん繰越金が減っている。だから、無駄な供託金を没収されなくなった点でもメリットがあった。

 一方で民進党にとってはとても魅力がある提案だ。6年前の参院選では、比例で1845万票、選挙区で2276万票だったが、3年前は、比例で713万票、選挙区は846万票と、1千万票以上減らしている。次の参院選では、どんなに頑張っても6年前の半減は避けがたい。前原誠司さんが「共産党はシロアリ」だと言ったが、岡田代表の立場からすれば、シロアリだろうとなんだろうと、今とりあえず票がほしい。

 共産党の票は、各選挙区で少ないところでも3、4万票、多いところでは10万票以上あるから、民進党が提案を簡単に蹴れるわけがなかった。今、民進党は下り坂だが、共産党は3年前の参院選、一昨年の衆院選と上り坂だ。だからこの提案が効いたわけだ。

 共産党は、今度の選挙で民進党の当選のために一生懸命やるだろう。ある意味、共産党の議席を増やす以上に必死にやる。これで1人区で何人かでも勝てれば、これは大きい。こうなると民進党は共産党に足を向けて寝られなくなる。

 共産党としては、今回どれだけ恩義を売ることができるかだ。今後も民進党との協力関係を維持しようと思えば、次の選挙でどうしても実績を上げる必要がある。志位(和夫委員長)さんは政治生命をかけるというようなことまで言っている。共産党にとって、次の参院選は、勝負をかけた選挙だ。今後の総選挙や参院選でも協力できる芽を残す、それが最大の狙いだ。

 共産党の側から候補者を下ろすというのは、なかなか賢いやり方だ。安保法制反対派は、「共産党は、自らの候補者を下ろしてまで、安保法制廃止のためにやっている。だったら共産党に入れてあげようか」となる。そういう意味で一石二鳥、三鳥の提案だった。

 こんな大胆な提案は不破(哲三前議長)さんにしかできない。この提案を見た時、僕は今でも実権を握っているのは不破さんだと思った。

 安倍首相が言うように今度の選挙は「自公対民共」だ。ある意味、一対一の対決になる。そういう意味では、ものすごく分かりやすくなった。しばらくこの政党構図が国内では続くだろう。

 共産党というのは、地球は自分を中心に回っていると思っているところがある。共産党は戦後、三つの躍進の時期があったと言っている。第一が、1960年代から70年代、第二が、90年代後半。そして第三が今だと言っている。しかし、本当の躍進の時期というのは、60年代から70年代だけだったと思う。ちょうどこの時期は、私が共産党に入党した時代で、我々若者がたくさん入った。

 第二の躍進の時期は、日本社会党が消えた時だ。だから、革新票がどさっと共産党に来た。それを不破さんは勘違いして、当時の党大会で衆議院で100議席、参議院で数十議席という大きな目標を掲げたが、それからずっと下がりっぱなしだ。

 今も躍進の時期ではない。民進党が今の体たらくに陥ったから共産党に票が来ただけだ。その証拠にしんぶん赤旗の発行部数や党員は減っている。

 3年ほど前の党中央委員会答弁では、65歳以上の党員が4割とされている。これを60歳で切ったら、恐らく6割、7割になるだろう。安保法制反対のデモを見ても、「SEALDs」(シールズ)の周りにいるのは年寄りばかりだ。新しい人が入って来ないで、ずっと高齢化だけが進んでいる。

 共産党や護憲派の議論は実に浅薄だ。「立憲主義を守れ」と言っているが、彼らの主張からすれば、「今さら何が立憲主義だ。これ以上、立憲主義を踏みにじるな」と言わないといけないはずだ。ところが、自衛隊をなくせ、日米安保条約は不要だとは言わずに、安保法制さえなくせば、立憲主義は守られると言う。

 これは「甘えの議論」だ。自衛隊や日米安保条約は、自然の空気のようにあるわけだ。それに甘えて「立憲主義を守れ」「戦争法廃止」などと言うのは、実に無責任だ。

 日米安保条約はあくまで軍事同盟だ。これだけは忘れてはいけない。米国には集団的自衛権を行使しなさい、若者が日本のためにいつでも死ぬ覚悟を持ちなさい、しかし日本は嫌だと言う。こんな話が通用するわけがない。もちろん民進党の中には立場の違う人がいるが、選挙のために今は黙っている。

 よく共産党が自慢して「あの侵略戦争に反対した唯一の政党である」と言う。だったら「憲法9条に反対した唯一の政党だ」と言ってほしい。

 憲法を改正して自前の軍隊を持とうというのは、共産党の確固たる方針だった。野坂参三は、自衛戦争は認められるべきだと言っていた。一言でいえば「中立自衛」が共産党の立場だったが、それがどんどん変わっていった。憲法は一字一句変わっていないのに改憲論から護憲論になったということは、共産党が変わったということだ。

 山下(芳生前書記局長)君は、「共産党は暴力革命を考えたことは一度もない」などと嘘を言う。戦前は非合法だったから、どうやって革命を起こすかというと、暴力革命以外あり得ない。戦後の51年綱領の軍事方針も実はスターリンと毛沢東が作った。これは、まぎれもない暴力革命だ。共産党はそれを認めるべきだが、そんなことがなかったかのように言う。党の規律に違反して一部の人が勝手にやったというが、徳田球一、野坂参三といった共産党の大指導者だ。当時のナンバー1が勝手にやったから党は知りません、などという馬鹿な理屈が通るわけがない。今でも暴力革命をやるだろうと言われたとしてもそれは自業自得だ。

 そこはやはり共産党のご都合主義だ。何が何でも自分たちの非を認めないというのが牢固(ろうこ)としてある。自分たちだけが正しいと言っている限りは、多数派には絶対になれない。