政府の沖縄振興策への影響を懸念
普天間基地移設 経緯の検証と提言(4)
万国津梁機構・一般社団法人 仲里嘉彦理事長
県土の狭い沖縄に在日米軍施設が集中していることは異常だ。早急に米軍基地を整理縮小するとともに、平成8年にまとめられたSACO(沖縄に関する特別行動委員会)最終報告に基づいて返還が合意された嘉手納以南の米軍基地を極力県外に移設するよう具体的な交渉を進めるべきである。
今後、この基地問題が争点として法廷闘争に持ち込まれることになれば、政府の沖縄振興策にも大きく影響するものと懸念される。
その一つは、平成25年12月に安倍総理と仲井眞前知事が平成33年までの沖縄振興予算を3000億円以上にする約束が反故にされるのではないかということだ。それに加え、復帰後50年間継続することになっている高率補助を全国水準に引き下げる口実を政府に与えかねないことである。
沖縄県および県内41市町村の自主財源は全国に比べ十数%低い水準にあり、高率補助の適用が受けられなくなると事業が採択されても「裏負担金」(地方の負担費用)の捻出ができず、事業を見送るケースも数多く出てくることも想定される。
例えば、河川改修費補助、河川総合開発事業費補助、砂防事業費補助、治山事業費補助、海岸事業費補助など、沖縄県の場合は90%の補助率に対し、沖縄以外の全国の場合は50%の補助率なので、沖縄県は極めて高い。
これらの90%の補助を受けて事業を実施する場合、仮に10億円の事業を実施することになれば、沖縄県は1億円の裏負担金を準備すれば事業の実施は可能である。それに対し、沖縄以外の都道府県の場合は10億円の事業を実施するにあたっては、5億円の裏負担金を準備しなければならない。この高率補助だけをみてもいかに沖縄が優遇されているか、一目瞭然である。
また、重要港湾の整備について沖縄県の場合は95パーセントの補助率であるのに対し、沖縄を除く全国の場合は55%の補助率となっている。さらに沖縄県だけに適用されている沖縄振興一括交付金は、沖縄の実情に即してより的確かつ効果的に施策を展開するため、沖縄振興事業を沖縄県が自主的な選択に基づいて実施できる一括交付金制度が平成24年度に創設されている。
ちなみに平成27年度の沖縄振興交付金は、1618億円となっており、この予算は、沖縄県をはじめ41市町村に配分されてさまざまな事業が実施されている。この一括交付金の補助率は80%となっているが、さらに残り20%のうち、10%は地方交付税で措置することになっているので、実質補助率は90%になる。その他、情報特区、金融特区における税制上の優遇措置や、酒税・揮発油税の軽減措置など数多くの優遇措置が講じられている。
沖縄県の人口は昭和47年の祖国復帰時の97万人から平成26年末には142万5000人に達し、その間45万5000人増加しているが、その最大の要因は全国に比べ沖縄に対する高率の補助をはじめとする政府の沖縄振興策が極めて適切であったことによるものである。それなのに、その恩恵を受けていることに気付いている県民が少ないことは残念である。
しかし、この高率補助が廃止され、全国水準に引き下げられた場合は、失業者が急増し、戦前並みの移民県としての道を歩むことは必至で、経済の低迷は避けられないであろう。そうならないためには政府との信頼関係を再構築していく努力が必要だ。