政府と沖縄県が修復困難な局面に
普天間基地移設 経緯の検証と提言(3)
万国津梁機構・一般社団法人 仲里嘉彦理事長
平成26年11月に行われた沖縄県知事選で、普天間飛行場の県外移設を選挙公約に掲げた翁長雄志氏が県内移設を選挙公約に掲げた仲井眞弘多前知事に圧勝した。
これに伴い、翁長知事は仲井眞前知事が平成25年12月に名護市辺野古地先の公有水面埋め立てを承認したことは法的瑕疵(かし)があるとの疑念からそれを検証するための第3者委員会を設置して検証作業を進めてきた。
それが、去る7月16日、法的な瑕疵があるとの検証結果が知事に報告され、それを受けて知事は8月下旬から9月上旬にかけて辺野古埋め立て承認を取り消す方針を明らかにしていたが、政府は沖縄県と8月4日から9月9日までの一カ月間、移設計画の一切の工事を停止し、移設問題について集中的に協議することで合意した。
8月10日以降政府と沖縄県の移設に関する集中協議は、最終回となった9月7日の第5回協議に安倍首相も参加し官邸で行われた。だが、双方の隔たりは大きく、協議は継続することになったものの、実質決裂するという最悪の事態となった。
翁長知事は、辺野古埋め立て承認取り消しをはじめ、あらゆる手段に訴えて「新基地」建設を阻止する強行姿勢を示した。辺野古埋め立ての是非を問う県民投票や知事選を実施するなどの諸説も浮上するなど、政府と沖縄県の関係は修復困難な局面を迎えている。
国と沖縄県の集中協議が決裂したのを受け、翁長知事は14日県庁で記者会見を行い、名護市辺野古への移設に伴う仲井眞前知事の公有水面埋め立て承認を取り消すことを正式に表明した。
それに伴い沖縄県は防衛省沖縄防衛局に意見聴取を行うよう通知していたが、同省は反論陳述書を郵送で提出。聴聞は10月7日以降に行う見通しで、その後翁長知事が「政治判断」することが想定されている。
埋め立て取り消しになれば、国は国土交通省への不服審査請求や裁判所に対する代理執行訴訟など法的な対抗措置を講ずる手段に出ることが想定されている。 仮に法廷闘争に発展すれば、辺野古埋め立て問題はさらに長期化するばかりか、いずれかが裁判で勝訴するにしても双方の溝は修復不可能なほど深まり、近年高まりつつある沖縄での独立運動に拍車がかかる事態もあり得よう。正に民族分裂の危機である。
この移設問題については、単に県内移設に反対するというスタンスだけではなく、1609年の薩摩藩の琉球国への侵攻以降400余年にわたって様々な外圧があり、これが本土に対する怨念にもなっているといえよう。この怨念が普天間飛行場の辺野古移設に反対する県民の思いをさらに煽(あお)る要因となっている。
だが今われわれ沖縄県民は、過去の忌まわしい歴史を振りかざすのではなく、将来に向けた明るい展望を切り拓くための議論を活発に展開していくことが求められているのではないか。
政府は平成25年6月に閣議決定した成長戦略・骨太方針の中で、「成長著しいアジアの市場に最も近接する沖縄について国家戦略として特区制度の活用を図る」ことが謳(うた)われ、「沖縄が日本のフロントランナーとして21世紀の成長モデルとなり、日本経済活性化の牽引(けんいん)力となるよう国家戦略等を総合的に推進する」ことが明記されている。
沖縄の地理的条件を活(い)かして沖縄がアジアの経済成長のエネルギーを有効に活用するためには、韓国の仁川に設置されている経済特区のような法人税ゼロといった思い切った政策を沖縄に適用するなど、沖縄重視の経済政策を打ち出すためにも国との摩擦は回避すべきである。