マスコミの反秘密保護法報道、国民の不安煽るも空振り
浮き彫りになった影響力低下
特定秘密保護法の成立後、安倍政権の支持率が下がった。リベラル左派の大新聞をはじめとしたマスコミは「国民の知る権利の侵害だ!」などと、同法に対するヒステリックなまでの反対キャンペーンを繰り広げて国民の不安を煽(あお)ったのだから、その影響が少しはあったのだろう。しかし、同政権の支持率はここにきて再び上昇した。日本の有権者はいつまでも偏向マスコミのアジテーションに惑わされているほど、愚かではないようだ。
論壇では、保守系の月刊誌を中心に、大新聞・テレビの常軌を逸した大反対キャンペーンを批判する論考が目についた。その代表は評論家の潮匡人で、その論考「左翼媒体と堕した進歩派マスコミ」(「正論」2月号)で、テレビ・ラジオと大新聞を並べて批判した。
まず、テレビでは「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」とする放送法第4条を挙げながら、「そうした番組を見た記憶がない」と指摘した。
テレビ局が放送法を無視するのは今に始まったことではないから、驚くほどのことはないが、それでも、NHKのラジオ第1の「私も一言! 夕方ニュース」(12月4日放送)は「違法性が濃い」と強調する。なぜなら、番組のゲストコメンテーターに反対派ばかりを起用した上に、番組中に紹介したリスナーの「意見」には「国会を包囲し、安倍政権を退陣に追い込もう!」と呼び掛けるものもあったという。これに対して、潮は「まるで倒閣運動ではないか。公共放送の体をなしていない」と憤る。NHKはいつから政治活動まがいの放送を行うようになったのか。
次に新聞である。まず俎上(そじょう)に載せたのは朝日新聞。特定秘密保護法を「ナチスの全権委任法」にたとえて批判しながら、「国民みずから決意と覚悟を固め、声を上げ続けるしかない」と、読者に安倍政権の倒閣を呼びかけた社説を例にとって、「これでは左翼政党の機関誌ではないか」と皮肉る。もしかすると、先に挙げたNHKラジオに意見を寄せたのは、朝日の社説を読んだリスナーだったのかもしれない。
さらに、民主党の菅直人政権下で、尖閣ビデオ映像が流出した際、「特定分野では、当面秘匿することがやむをえない情報がある」(朝日社説)、「漏えいを許したことは政府の危機管理のずさんさと情報管理能力の欠如を露呈するものである」(毎日社説)などと、知る権利を放棄した大新聞が、特定秘密保護法になると、常軌を逸した反対キャンペーンを繰り広げたことに対して、潮は「政権が代われば、論説姿勢は反転。二枚舌を弄して恥じることもない。今さら、彼らに『知る権利』や『報道の自由』を語る資格があるだろうか」と、容赦なく切って捨てるのだから小気味よい。
一方、特定秘密保護法には「かなりの反対もあったのだが、たぶんこのまま忘れ去られるだろう」と、世論の動向を見据えたのは双日総合研究所取締役副所長の吉崎達彦(「大新聞『猛反対』の空回り」=「新潮45」1月号)。この論考の中で、マスコミの反対キャンペーンがそれほど盛り上がらなかったことについて、吉崎は「幸か不幸か、マスコミへの信用がこの10年くらいでずいぶん落ちた」からだという。
原発に関する情報をたまたま耳にした主婦がブログに書いたら逮捕されるなどと、現実にはあり得ないケースを例に持ち出して、同法反対を煽ったのだから、「大マスコミの夜郎自大が空回りしていただけの話」という吉崎の指摘は図星である。
「暗黒の時代がやってくる」などと、朝日新聞をはじめとしたリベラル左派のマスコミが連日一面で感情的な反対キャンペーンを繰り広げながらも、同法成立時の国会周辺デモの参加者は1万5000人しかなかった。これは主催者発表の数字だから、実際の数はこれよりはるかに少ないはず。特定秘密保護法の成立はマスコミの偏向度だけでなく、その影響力の低下も浮き彫りにしたのだ。
編集委員 森田 清策