“終息”しない少子化 「男女」の価値見直されるか
厚生労働省の人口動態統計によると、死亡数から出生数を引いた人口自然減は昨年、51万5864人で、初めて50万人を超えた。1人の女性が生涯に産む子供の推計人数を示す「合計特殊出生率」は1・36で、4年連続で低下している。わが国で「少子化」が国家の重要課題だ、と叫ばれ始めてから久しいが、いまだに解決の糸口さえつかめていない。
前出の論考の中で、日本が新型コロナの被害を最小限に抑えたのは「直系家族」の影響を指摘したエマニュエル・トッドは、次のように語って日本の少子化に警鐘を鳴らしている。
「(日本の)唯一にして最大の危機は、『少子化』です。私はかつて『日本の核武装』まで提案しましたが、少子化対策は、安全保障政策以上の最優先課題です」
パンデミックは国際関係、社会、経済、医療などさまざまな分野で混乱をもたらしているが、いずれ終息する。しかし、わが国の現実を見れば分かるように、少子化の影響はじわじわと現れ、人口減少過程に入ったらそれを止めるのは容易ではない。
国連による人口推計予想によると、現在1億2600万人のわが国の人口は、50年後には約9000万人まで減る。さらに、2100年には7500万人を切るのである。しかも、高齢化率(65歳以上の割合)が今より高くなる。
今年生まれた赤ちゃんが80歳になる頃、「日本民族は滅びの危機に瀕(ひん)する」と言っても過言ではない状況が生まれるのだから、「自分の子供に苦労させたくない」と出産を控える若い夫婦が増えても不思議ではない。だから、少子化はマイナスのスパイラルを描くように進み、「安全保障政策以上の最優先課題」となるのだ。
メスだけで増える「単為生殖」に対して、メスとオスの二つの性で次世代を生み出す仕組みを「有性生殖」と呼ぶが、生物学者の福岡伸一は、大型の多細胞生物においては、単為生殖より有性生殖が「圧倒的に優位にある」のは、「個性のバリエーション=多様性を生み出すからだ」と指摘している(「Voice」7月号=「生物学から『性差』を考える」)。
そして、「多様性の創出がもっとも有利に働いたのは、おそらく感染症に対する抵抗性の差ができたことだろう。……耐性に差があれば、未知の病原体の襲来にも耐え抜くことができる」からだと述べている。
幾多のパンデミックにもかかわらず、人類が生き延びることができたのは、有性生殖が多様性を生み出しているからだということはよく指摘されることだ。しかし、多様性が大切と言っても、男女の営みがそれを生み出すのであれば、男女の「結婚」がより重要であることは論をまたない。
従って、リベラル左派の論壇を中心に、この生物学的な事実よりも性的少数者と「同性婚」の包摂を強調するのは、本末転倒の言説である。それが、わが国の少子化を深刻化させている要因の一つだろう。
前出の論考で、藤原正彦はコロナ後の「世界はどう変わるのでしょうか。経済的にはしばらく苦境が続きますが、これまでの世界を歪めてきた仕組みの欠陥がコロナ禍で露わとなったため、新たな価値観が誕生し、よりよい世界になるような気がしています」と、至って楽観的だが、そうなるためには、間違いなく人口減少への対応が大きな課題となる。男女の結婚の価値を再評価し、個人主義の流れを止めることは、日本がより良くなるための最低条件である。
(敬称略)
編集委員 森田 清策