中国無人探査機の月軟着陸成功に懸念を示す日経社説や読売解説面
◆協調性なく軍が開発
中国の無人探査機「嫦娥3号」が月面への軟着陸に成功した。旧ソ連、米国に次いで3カ国目で、無人探査機の月着陸は旧ソ連の「ルナ24号」以来37年ぶりである。
着陸後、嫦娥3号からは、搭載していた探査車「玉兎号」が月面に降ろされ、3カ月の間、地形や地質のデータを収集するという。
日本の宇宙開発関係者にとっては、有人では追い抜かれ、月着陸でも先を越されて、うらやましくも、また歯がゆくも感じている人は少なくないであろう。
もちろん、中国の宇宙開発は軍が主導し、米国との宇宙の覇権を懸けた争いに勝利したいという側面があるから、日本とは目指す方向が違うとはいえ、一段と差をつけられた感じである。
中国の宇宙技術力の進展と、その基になる宇宙開発の戦略的計画性、また計画より早めに達成する意志の強さには、改めて驚異かつ脅威に思える。
今回の中国探査機の月着陸について、ただ一紙、日経が19日付で「中国は月探査への疑念を解け」との見出しの社説を掲載した。
同社説は今回の成功を、「中国の宇宙技術の水準の高さを示す一方で、月の資源獲得や軍事利用などへの懸念を生んでいる」とし、中国に対し、「国際的な秩序を守り、他国との協調を重視した宇宙開発を進めるよう望みたい」と指摘する。
確かに、尤もな指摘なのだが、同紙も認める通り、中国は宇宙開発全体が軍主導で進められている。「中国の宇宙開発に関する情報公開が進んでいないことが疑念を深める大きな要因だろう」(同紙)と分かっていても、宇宙ステーションでも独自に建設しようとするほど、わが道を行く中国に対して、どこまで通じるものか。
◆軍事利用の恐れ説く
社説こそなかったものの、3面の解説欄「スキャナー」で、狙いを詳しく分析し、「軍事利用に直結 懸念も」との記事を載せたのは読売(16日付)である。
同紙は1面にニュース、3面に解説の構成で、3面の分析記事の見出しは「月着陸 中国の技術誇示/国威発揚・資源にも野心」である。
習政権は着陸の「成功」を大々的に宣伝することで、「国内向けに科学技術力を誇示し、国威発揚を図る考え」で、「今後は、玉兎号の調査結果を根拠に、覇権的な『権益』を国際社会で最大限アピールする思惑とみられる」という内容である。
同感である。
月には将来的な核融合発電の燃料で、地球にはほとんど存在しないヘリウム3が豊富にあるとされる。同紙は、中国紙「北京青年報」の15日社説が、「月探査を展開し、実際の成果を得て初めて、月の権益を享受する『通行証』を獲得でき、月の権益を守ることができる」と書いていることを示し、中国の狙いを裏付けている。
軍事利用の懸念では、長期的には地球と月の間の支配が目指すゴールではないかという米研究者の分析を紹介。現在、米国をはじめとする多くの宇宙利用が3万6000~300キロの範囲に限られ、それらをさらに上空から監視することにつながるからである。真偽はともかく、有用な視点である。
◆日本側の焦りも指摘
他紙では朝日(16日付)が2面で、毎日(同)は3面で、ニュース記事に関連記事を合わせた形で掲載。朝日では「米、急速な台頭を警戒」「日本、技術競争で後れ」、毎日では「日本 技術あっても予算足りず」「資源利用 ルールあいまい」などの見出しの付いた記事が載った。
特に毎日では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で月探査計画に携わる橋本樹明教授の「日本にも、月面着陸の技術は十分ある」「嫦娥3号の計画は、かぐや2でやろうとしていることとそっくり。先を越されたことが残念」とのコメントを載せ、日本側の開発従事者の偽らざる心情を明かした。
ほかでは、東京が18日付の「特報部」欄の右肩で、「中国 月資源にも照準?/『宇宙の憲法』採掘規定なし」の関連記事を載せ、月の資源開発での国際的な新たなルール作りの必要性を示唆した。
最後に、日頃、中国の軍事的脅威に警鐘を鳴らしている産経や本紙に、懸念を示す関連記事や社説がなかったのは残念である。
(床井明男)