欧米の“同性愛圧力”かまわず首相はソチ開会式に出ろと説く手嶋氏
◆欧米首脳が欠席表明
来年2月7日に開会式を迎えるソチ冬季五輪がとんだ同性愛騒動の舞台になってしまった。世界日報の読者ならご存じだと思うが、今年6月、ロシアで同性愛宣伝禁止法が成立したことに抗議し、米国のオバマ大統領、イギリスのキャメロン首相、フランスのオランド大統領など、欧米の首脳がこぞって開会式を欠席するというのだ。
米国に至っては、人権団体からの圧力もあって、同性愛者の元女子テニス選手のビリー・ジーン・キング氏らを政府代表団に入れてソチ五輪に派遣すると言い、まるでプーチン政権への嫌がらせみたいな挙に出ている。ソチ五輪では、雪不足やテロなどの懸念材料があるが、それに同性愛問題が加わった格好だ。
テレビの情報ワイドショーなどでもこの話題で持ちきりだったが、ほとんどの番組は「同性愛は今や人権問題」と、同性愛者の権利擁護に熱心なオバマ政権にこびるようなスタンスだった。そんな中で、ゲストコメンテーターが冷静な分析と提言を行っていたのが、25日放送のTBSお昼の情報バラエティー「ひるおび!」だ。
この日のゲストは外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と、スポーツ評論家の玉木正之氏。玉木氏がまず、国際オリンピック委員会(IOC)は人権問題に対して常に「センシティブ」であり、「同性愛もマイノリティーの人権問題の一つになっている」と説明した。かつてはナチスが身体障害者や同性愛者を差別した歴史があるから「大問題」なのだという。
◆卓見披露した手嶋氏
ロシアの同性愛宣伝禁止法は同性愛そのものを禁止するのではなく、同性愛であることを公の場で宣伝する行為を禁じる法律だ。それが五輪の理念に引っかかる問題だとは思えないのだが、もしそうだとすると、同性愛行為そのものを禁止する国(中には死刑にする国もある)は五輪に参加したり、開催する資格がなくなってしまうだろう。
そんな話は出ていないのだから、ソチ五輪に向けた騒動は、欧米諸国が五輪を同性愛者の権利擁護拡大の場に利用しようとしている、つまり政治利用しようとしていることから起きたものではないか、との見方ができる。
IOCが人権問題に敏感なのは事実にしても、純粋に人権の観点だけで、今回の騒動が広がっているのではないことを解説したのが手嶋氏だ。「オリンピックは国際政治の現状を映し出す見事な鏡になっている」という有名な言葉を紹介したあと、オバマ政権が同性愛者の権利擁護に積極的にならざるを得ない理由を述べた。
つまり、2度の大統領選挙で、オバマ大統領は同性愛に寛容だという政策を打ち出している。共和党との僅差の中で、同性愛者やその支援者の票をもらって当選したのだから、彼らの権利擁護の姿勢を崩すことはできない。また、民主党としても、共和党にホワイトハウスを渡さないためには、同性愛寄りのスタンスを続ける必要がある。したがって、ソチ五輪の米国代表団に同性愛者を入れるのは、ロシアへの当てつけだけでなく、米国内向けのパフォーマンスの意味合いもあるのだ。
興味深いのは安倍晋三首相への手嶋氏の助言。「もし僕が安倍総理だったら、(ソチ五輪に)行きますね。北方領土の問題もあって、『開会式には行かない』と言っているが、主要国の首脳が軒並み行かない中で、敢然と行ったら、プーチン大統領は涙を流して喜ぶだろう。そうすれば、北方領土問題にもいい影響を与える」というのだ。
◆日露関係に展望開け
安倍首相とプーチン大統領はともに家族の問題で保守的な価値観を持っている。また、2020年五輪の東京招致の際には、柔道愛好家のプーチン大統領が東京のために3票取ってくれたという話もある。だから、「恩返しもあるし、北方領土問題ですぐではないにしても、展望が開ける可能性もあるから、行くべきだと思いますよ」と手嶋氏は語る。
思惑通りにプーチン大統領が恩に感じるかどうかは別にしても、五輪で“同性愛圧力”を仕掛ける欧米諸国と日本は一線を画すことを示す意味では、安倍首相が開会式に出席するのは一つの選択肢だ。2020年を見据え、五輪が生き馬の目を抜く国際政治の場であることを今から身をもって体験しておくのもいいだろう。
(森田清策)





