新年読み解くニューズウィーク特集の予想を上まわる日中韓緊張も
◆研究員の“懸念”的中
安倍晋三首相の靖国神社参拝に中国、韓国が猛反発している。ここまでは想定内だが、米国までが「失望した」と反応し、年末に来て、日本外交にほころびが生じている。
首相の靖国参拝は7年ぶりのこと。前政権のときに参拝できず、「痛恨の極み」としていた安倍首相は、満を持して参拝に臨んだ。辺野古埋め立てを沖縄県知事が承認し、懸案だった普天間基地移転にめどが立って、対米関係は問題なしと判断してのこと、という分析が多い。
だが現実は米国の日本への期待を読み違えたようだ。米国の東アジア政策では、ともに米国の同盟国である日本と韓国の関係がこれ以上悪化することは避けたい。安倍首相の靖国参拝は、米国が願わない日韓対立を煽(あお)る行動に映ったわけだ。
ニューズウィーク日本版(12月31日、1月7日号)は、修復への道すら見いだせない状況になった日本と中国、韓国との関係が新年にはどう推移していくのかについて、米専門家の分析を載せている。
米戦略国際問題研究所のJ・バークシャー・ミラー太平洋フォーラム研究員による「日中・日韓関係を修復するには」の記事がそれだ。この中で同研究員は、「中国がADIZ(防空識別圏)を設定したことが、両国関係に冷や水を浴びせ続けるのは確実」であり、また「安倍あるいは閣僚が靖国神社を参拝する可能性も、常に付きまとうリスクだ」とし、日中間の緊張が高まる可能性が常にあることを指摘していた。
現実はこの懸念がそのまま的中した格好だ。安倍首相の靖国参拝で、中国、韓国からは予想通り厳しい対日批判が噴出している。中国は「対抗措置」を取ると言い、韓国は日本との外交関係を当面「凍結」する方針まで出している。
◆失望の背景の悪影響
「日韓関係が崩壊してしまえば、それは当事国だけにとどまらず東アジア一帯、ひいてはアメリカの『アジア重視』政策にも悪影響を及ぼす」とミラー研究員は警告していたが、このままだと、本当に米国のアジア重視政策の調整が必要になってきそうな雲行きである。米国が「失望した」とまで言う所以(ゆえん)だ。
また、同研究員は「日中、日韓といった2国関係についてはすっかり断絶状態だが、韓国も交えた3カ国関係では進展が期待できる」と見通していた。日中韓3カ国で自由貿易協定(FTA)の交渉会合を行い、2014年末の合意を目指すことが確認されたことを指しているが、それも「凍結」されるだろう。石破茂自民党幹事長による日中韓首脳会談呼び掛けも空しく響く。
新年の日中韓関係は記事の予想を超えて厳しいものとなる。
週刊文春(1月2・9日号)で内閣参与の飯島勲元首相秘書官とケビン・メア元米国務省日本部長が対談した。日米関係、中国の海洋覇権拡張、北朝鮮の核・ミサイル、日本人拉致問題など、東アジア情勢について語っている。
その中で、日韓問題についてのメア氏の指摘が目を引く。「ワシントンでは、二〇一三年の前半と後半で学者、シンクタンク、政府内で、日韓への見方は変わりました。前半は、なぜ安倍政権は歴史認識を変えようとするのか。それが最近では、なぜ韓国がもっと協力しないのか、に変わってきた」というのだ。
ヘーゲル国防長官、バイデン副大統領の訪韓、訪日ではっきりと米国の日韓を見る目が変わったが、そうしたオバマ政権の主要閣僚が“肌で感じた日韓”観も反映されてのことだろう。
しかし、これも見直しが行われる可能性がある。コトを荒立たせてほしくない、という米国の期待にもかかわらず、靖国参拝を強行したことで、安倍首相にも朴大統領と同じく「頑(かたく)な」という評価をすることもありうるわけだ。
◆日米関係に傾注せよ
飯島氏は、日韓関係について、「日本側は、冷静な態度で、朴大統領の路線変更までは、じっとしているべきでしょう」と半ば匙(さじ)を投げているが、安保では米国、経済では中国に頼るという「コリアパラドクス」を抱える韓国の構造自体が変わらない限り、朴大統領の路線変更はないだろう。
現時点で、日本外交にできることは日米関係を強固に保つことに全力を傾注していくことだ。
(岩崎 哲)





