「慰安婦」日韓合意に歓迎論調の中で履行見守り評価保留した読、産
◆歩み寄る双方に課題
日本と韓国の大きな懸案となり相互不信の象徴だった慰安婦問題は「最終的、不可逆的に解決」することで妥結した。岸田文雄外相と韓国の尹炳世外相は28日にソウルで会談し、両政府の協議は合意に達した。また国際社会で非難、批判を控えることを確認。元慰安婦支援の事業のため韓国政府が財団を設立し、日本政府がこれに10億円程度を基金として一括拠出することで一致したのである。
両外相は会談後、共同記者発表で岸田氏が日本政府は慰安婦問題への旧日本軍の関与を認め「日本政府は責任を痛感している」と言及。「安倍首相は心からおわびと反省の気持ちを表明する」と説明した。尹氏は、日本政府が撤去を求めているソウルの日本大使館前の慰安婦を象徴する少女像については「関連団体との協議を行うなどして適切に解決されるよう努力する」と語ったのである。
安倍晋三首相は日韓の合意を受けて28日夜に韓国の朴槿恵大統領と電話会談し、慰安婦に対する謝罪と反省を伝達した上で「慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを歓迎したい」と表明。朴大統領も最終合意を良かったとした上で、首相のおわびと反省の表明を「被害者の名誉と尊厳の回復、心の傷を癒やすことにつながる」と評価したのである。
今回の合意は1990年代初めに慰安婦問題が外交問題化して以来、両国がようやく初めて妥結に達した政治的合意である。それだけに「ガラス細工の合意」であることは否めない。会談の正式な合意文書はない。韓国が国内に抱える微妙な問題から、両外相は会談後に並んで行った共同記者発表で、合意の表明と会談の成果を互いに確認するという異例の形式をとったことからも分かる。
とはいえ、今年は日韓国交正常化50年という大きな節目の年である。北東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中で、隣接する両国がいがみ合うことは双方に利益がないことは明らかで、何とかここで歩み寄って折り合いを付けた意義は小さくない。「韓国政府には国内の理解を得る努力が、日本政府には真摯に合意を実行し信頼を得ていくことが求められる」(小紙28日・解説)のである。
◆歓迎色を出した朝毎
「『慰安婦』日韓合意」を論じる翌29日の各紙論調は、「歴史を越え日韓の前進を」(朝日・社説)や「日韓の合意を歓迎する」(毎日・社説)など高く評価して歓迎色を出したものから、「本当にこれで最終決着か」(産経・主張)や「韓国は『不可逆的解決』を守れ」(読売・社説)などと妥結の評価は時間をかけてと慎重、やや懐疑的な見方まで、それぞれの色が出た。
「(両政府が)負の歴史を克服するための賢明な一歩を刻んだことを歓迎したい」と切り出す朝日は「合意は、新たな日韓関係を築くうえで貴重な土台の一つ」と評価。その上で、バランスをとり日本政府には「誠実に合意の履行」を求め、韓国政府には「真剣に国内での対話を強める以外に道はない」と迫ったのである。
毎日は「両国が知恵を出しあって合意に至ったことは画期的」として、節目の年の合意を歓迎。合意内容で「どちらが多く譲ったかの『勝ち負け論』に陥ることなく、日韓の新時代を切り開く基礎にすべき」だと論じるが、分析の甘さは否めない。
◆着実な努力いる韓国
これに対して産経は「韓国側は過去、日本側の謝罪を受け何度か、慰安婦問題の決着を表明しながら、政権が交代し、蒸し返した経緯がある」ことを指摘し、「『妥結』の本当の評価を下すには、まだ時間がかかる」とした。最終決着となるかどうか、慰安婦像の撤去や世界記憶遺産への対応など、韓国側の約束履行を注視した上で評価するという慎重な姿勢を示したのだ。
読売も「合意が、停滞してきた日韓関係を改善する契機となるのか、見守りたい」と冷静かつシビアに論じ評価を保留した。大切なのは「韓国が将来、再び問題を蒸し返さないようにすること」で「合意に反対を唱える国内勢力を説得できるかどうかが問われる。少女像の撤去も重要な試金石となろう」と、韓国に一つひとつ着実に解決していく努力を求めた。スジ論から言えばその通りの正論である。
(堀本和博)





