パリ協定採択で脱化石燃料社会での原発稼働反対の本音が覗く朝毎

◆高揚感ある各紙社説

 とにかく参加196カ国の合意がなければ何も始まらない。そこで何とか12日夜(日本時間13日未明)に合意に漕(こ)ぎつけたのがパリで開かれていた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(CОP21)が採択した「パリ協定」である。2020年からの地球温暖化対策の新たな枠組みとなる。

 「対策の実効性と公平性の面で大きな前進だといえる」(日経15日・社説)、「数年来のCОPの積み上げによる歴史的合意への到達だ」(産経同・主張)、「地球温暖化対策の重要な前進」(読売同・社説)、「温暖化への危機感を世界が共有して踏み出す第一歩である」(朝日同・社説)、「人類の未来を守るために、国際社会が歴史的な合意にたどり着いた」(毎日同・社説)、「地球温暖化抑制への重要な一歩が踏み出された」(小紙同・社説)。

 人類の未来がかかるパリ協定採択について論ずるだけに、各紙論調には少しばかりの高揚感がにじむ。

 協定は、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度未満に抑える目標を掲げるとともに、温暖化の影響が深刻な島嶼(とうしょ)国にも配慮して「1・5度未満」にとどめるよう努力目標も併記。目標を達成するために、各国は提出した温室効果ガス削減の自主目標を基に削減を図る。目標達成を義務付けない緩やかな枠組みであるが、各国は5年ごとに目標見直しと一層の削減を進め、世界全体の排出削減の取り組み状況も5年ごとに検証するとしたのである。

 また対立した途上国支援では、先進国が20年以降も年1000億㌦を継続し、25年までにそれを下限とする新しい目標を定めることを拘束力のない別文書に盛り込んだ。温室効果ガス削減では途上国も応分の責任を負う体制が作られるなど、双方が譲歩してパリ協定が採択された意義は大きい。

◆選択肢封印する毎日

 各紙論調もここいらまでの解説は似たり寄ったりで、違いが出るのはここからである。

 朝日は「世界は脱化石燃料・脱炭素社会に大きくかじを切る決意をした」と言い「(日本も)社会や産業の構造を、もっと積極的に脱炭素に切り替えていくべき」と主張。毎日も「化石燃料に依存する現代文明からの転換点となることを期待したい」とうたう。

 その点もまったく異存がないのだが、問題はその先の具体論になると勢いが急になくなる。朝日のそれは「家庭や自治体、さらには社会も、従来のエネルギー多消費型から省エネを考えたものに変わっていかなければいけない」と、当たり前の“省エネのススメ”説教に変わってしまってジ・エンド。これだけで温暖化防止が図れるとすれば世話はない。社説は床の間の飾りと揶揄(やゆ)されても反論できまい。

 再生可能エネルギーと省エネの一層の拡大を説く毎日社説は、本当は朝日が言いたい本音をちらりとのぞかせた。「化石燃料に依存しないエネルギーシステムの構築は、日本にとっても技術開発のチャンス」だとする一方で「安倍政権は、原発再稼働路線を進めているが、脱原発依存と環境対策の両立を図ることが……責務」だと、脱化石燃料の主要選択肢のひとつ原発活用を封印したのである。

◆具体的提案した読売

 これに対し、読売は「2国間クレジット制度(JCM)」の積極的拡大と原子力発電所の再稼働など具体的な提案をした。JCMは途上国の省エネ策支援で削減された排出量の一部を自国分に算入できる制度で、パリ協定でも採用された。日本は既にモンゴルなど16カ国と提携しており、国内対策より費用対効果も大きいと解説。もう一つは化石燃料依存を改めるには「原発の再稼働と新増設を進め、再生可能エネルギーの発電コストを下げることが重要」と説く。総合的な対策は具体的で分かりがいい説得力ある主張である。

 産経も原発再稼働とJCMの活用を説く。「13年度比で26%削減」とする日本の目標は「原発の再稼働や40年を超えての運転延長などが進まなければ、達成は難しい」と警告。JCMは「定着すれば国境の枠を超え地球規模で大幅削減への道が開ける」と高く評価するのである。一方で、京都議定書の教訓から「パリ協定の日本の批准は、米国と中国の実施を確認してからにしたい」とする留保条件は留意すべき指摘である。

(堀本和博)