「ひとり親世帯の貧困」に対策説く毎日などに欲しい家庭再建の観点

◆首を傾げる貧困事例

 「ひとり親世帯の貧困防げ」。こんなタイトルの記事が毎日3日付家庭面に載った。記事はひとり親(母子・父子)世帯の「貧困」を取り上げ、自治体の経済的支援策を紹介している。今年1年、ひとり親は子供の貧困を招く一因として問題視され、毎日のみならず他紙でもしばしば取り上げられてきた。

 厚生労働省の「全国母子世帯等調査」(2011年)によると、ひとり親世帯は約146万世帯で、8割以上が母子世帯で、同世帯の就労率は約8割だが、正社員はうち約4割にとどまり、就労収入は平均181万円(10年)と低い――記事はそんな実情を訴える。

 もとより支援策に異論はないが、この種の記事の中には首を傾げたくなる「貧困」が登場する。昨年、朝日は埼玉ベビーシッター事件で死亡した男児の母親を典型的なひとり親世帯の「貧困」として取り上げたが(同年7月26日付)、母親は遊びに気が引かれ、真剣に仕事先を探した様子がなかった。無責任な生活態度を問わず、単に貧困とすることに違和感を抱かされた。

 冒頭の毎日記事の場合、次のようなひとり親世帯の「貧困」が登場する。それは50代の派遣社員の「シングルマザー」で、年収は360万円だ。長男(17)と長女(15)と80代の母と暮らし、「実家に住んでいて家賃がかからないため何とか暮らせているが、貯金はできない。年度初めに教科書代(約8万円)を支払う際は、母から借りた」と言う。

◆将来の不安は別の事

 これが貧困だろうか。他人の懐具合を詮索するつもりはないが、年収360万円は母子世帯の平均収入の2倍だ。家賃の支払いに苦しむ母子世帯が多い中で、この女性はその心配がない。教科書代を借りたというから、母親には年金か貯金がありそうだ。貯金ができないというが、360万円は何に消えているのか。

 女性は翻訳の派遣業務をしており、9月の労働者派遣法改正で、これまで無期限だった翻訳派遣も上限3年となり、それで「今、生活や経済的な不安が一番大きいという。『私が病気で倒れたら、一巻の終わり』と話す」。つまり、女性は今の生活の貧困ではなく、将来の不安を語っているのだ。

 こうした不安はこの女性に限った話ではない。世の働く父親の多くもそうだろう。それで貯金したり、学資保険や生命保険に入ったりして備える人が少なくない。将来の不安と貧困とは別の話だ。それにしてもこの女性を「ひとり親世帯の貧困」として取り上げる毎日(女性記者の署名がある)の神経が知れない。

 もちろん、ひとり親世帯の貧困は大きな問題だ。わが国の子供の貧困率は6人に1人で、生活や教育に支障をきたしており、子供の福祉の観点からも看過できない。日本財団の推計によれば、子供の貧困による経済損失は2・9兆円にのぼるという(朝日3日付夕刊)。貧困防止策は経済成長の上でも欠かせないし、支援も必要だろう。

 しかし、ひとり親世帯の貧困を心底から憂うるなら、何よりもまず、貧困を招く原因となった「ひとり親になるのを防げ」と言うべきではないか。毎日だけでなく新聞は、ひとり親を防げとか、離婚防止とか、家庭再建について言ったためしがない。

◆家庭とGDPの相関

 この点、興味深かったのは本紙11月6日付「世界の潮流」で紹介された米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所などが行った研究報告書だ。それによると、全米50州のうち、子供がいる世帯で親が結婚している割合が最も高い10州はその割合が最も低い10州に比べ、1人当たりの国内総生産(GDP)や1世帯当たりの平均所得が高く、子供の貧困率が低かった。

 報告書は「個人レベルでは強固な家庭と経済的利益が関連していることが明らかにもかかわらず、エコノミストたちは強固な家庭が経済成長をもたらすかどうかについて研究を怠ってきた。これは深刻な見過ごしだ」と指摘し、結婚・家庭の重要性を訴える全米キャンペーンを展開すべきだと提言している。

 わが国の新聞も個人主義や自由を金科玉条とするあまり、家庭の重要性について「深刻な見過ごし」をしてきた。ひとり親世帯が貧困に陥るようになった根本的原因(家庭崩壊)こそ問うべきだ。

(増 記代司)