H2A初の商業衛星打ち上げに地理的な弱点の克服など各紙が評価
◆MRJに続きエール
日本の航空宇宙業界にとって、2015年の今年はまさに記念すべき年になったと言えるだろう。約半世紀ぶりの国産旅客機、三菱リージョナルジェット(MRJ)の初飛行成功と、H2Aロケット29号機による初の商業衛星打ち上げ成功である。
今回は後者の、初の商業衛星打ち上げ成功(先月24日)について、各紙の論評を取り上げたい。
各紙社説の見出しは次の通り(掲載日順)。読売(25日付)「官民で商業衛星の受注拡大を」、東京(同)「広がる宇宙ビジネス」、日経(27日付)「国産ロケットの競争力磨け」、本紙(同)「打ち上げビジネスの扉開く」、毎日(28日付)「競争力を更に高めたい」、産経(同)「宇宙産業を『成長軌道』に」――。
いずれも、「悲願だった国際的な打ち上げビジネスにようやく参入を果たした」(日経)、「国際市場への本格参入を目指してきた日本の宇宙産業にとって、大きな一歩だ」(産経)などと積極的に評価。「日本の宇宙産業を発展させる弾みとしたい」(読売)、「今後も成功を積み重ねて信頼性と存在感を高め、国内外からの受注拡大に結びつけてほしい」(毎日)などと熱いエールを送った。
各紙がこのように論評するのも道理で、日本はコストと地理的条件から衛星打ち上げビジネスでは欧米やロシアに大きな後れをとっていたが、今回の打ち上げは、「大幅な技術改良によって(弱点の一つである)地理的な不利を補った」(産経)からである。
地理的不利とは、ロケットを打ち上げる射場の緯度の問題である。静止軌道で運用する通信・放送衛星などの商用衛星は、赤道直下での打ち上げが断然有利。北緯約30度と緯度の高い種子島で打ち上げるH2Aは、分離後に衛星が軌道に入るまでの燃料消費が多く、受注競争で不利になっていた。
◆コスト・外需に関心
今回は、衛星をすぐには分離せず、ロケットの2段目エンジンを3回噴射して静止軌道により近い位置で分離するなどの技術的改良により、「衛星にとっては数年分の運用寿命に相当する燃料が温存され、今回の海外受注につながった」(産経)のである。
今後の課題は、各紙が指摘するように、打ち上げコストである。H2Aは約100億円程度で、欧米などに比べて2~3割割高。これをいかに引き下げるか。
H2Aの後継として20年度の初打ち上げを目指して開発中の新型基幹ロケット「H3」は、約50億円と半減させる計画だが、日経は「官民が役割分担を明確にする必要がある」と訴える。
H3で設計・開発段階から主体になっている三菱重工業には、部品の選定などで民間の発想を最大限生かし、性能やコスト面で優れていれば海外技術をも活用せよ、国産技術にこだわるな、と。宇宙航空研究開発機構(JAXA)にはこれまで蓄えた技術を惜しまず民間に移転し、種子島の射場は年間打ち上げ回数に制約があるため、受注拡大へインフラを整えよと。
産経は、日本の宇宙産業を安定的に発展させるためにアジアを中心に新興国の需要を掘り起こし、「外需獲得」につなげることが求められるとして「官民一体」(同紙)での取り組みを、同様に、日経はトップセールスでの働き掛けを強調する。尤(もっと)もな指摘である。
毎日は、JAXAと三菱重工がH2Aの更なる改良で、地上レーダーに頼らずにロケットを飛行させるセンサーなどの開発を進めており、H3にも使われるとして、その実用化を着実に進める必要があると訴える。
東京は、研究開発資金、研究者・技術者の数でも、日本は欧米などに大きく劣るとして、「こうした悪条件をはね返すのは、日本のもの作りの伝統でもある、高品質ときめ細かいサービスだ。打ち上げコストの高さを補う魅力に育ててほしい」と他紙とは違う視点を提供する。
◆朝日論評なき無感覚
これまで各紙の論評を紹介したが、唯一なかったのが朝日である。同紙はMRJ初飛行でも唯一論評がなかった。両者に関係しているのは三菱重工で、同社は「ジェット旅客機MRJと共に航空宇宙企業としての地位を確立した」(東京)わけだが、防衛関連企業でもある。朝日に両者の論評がないのは偶然?
(床井明男)





