公務員の特定秘密「適正評価」にプライバシーで抗う共同配信地方紙
◆推測で書く「抵抗感」
昨年12月に特定秘密保護法が反対運動の喧噪の中で制定されて1年、特定秘密を扱う公務員らが秘密を漏らす恐れがないかを調べる「適性評価」がほぼ終わり、同法は1日に完全施行された。
特定秘密の取り扱い許可は9万7559人。9割以上が防衛省と防衛装備庁の職員だという。毎日2日付によると、内閣官房は発表後、適正評価したうちの1人が秘密を漏らす恐れがあるとして特定秘密の取り扱いを認めなかったとし、数字を訂正した。漏らす恐れとはどういうことか、明らかにされていない。
この適正評価をめぐって共同通信は3日、防衛、外務両省の職員ら計25人が拒否したことが同社の取材で分かったとのスクープ記事を配信した。中央ニュースを共同に頼る地方紙の多くがこれを4日付に掲載した。25人も拒否したなら、確かにニュースだ。調べられれば、何かまずいことでもあるのだろうか。そう考えると、これは由々しきことだ。
ところが、共同記事は「調査が詳細な個人情報に及ぶ適性評価をめぐっては、プライバシー侵害の懸念も指摘されている。拒否の理由は不明だが、公務員らの一部も抵抗感を抱いていることがうかがえる」と記している。
記事の前段でプライバシー侵害の懸念を書き、「公務員らの一部も」と、「も」とするから明らかにプライバシー侵害に話を振っている。何とも不可解だ。拒否の理由が不明なのに、どうしてプライバシー侵害への抵抗感と決めつけることができるのだろうか。そうした主張に与する公務員らもいるだろうが、それは推測にすぎない。
◆琉球新報の断定ぶり
ところが、この推測を琉球新報は1面トップで「防衛、外務職員に抵抗感」との見出しを立て、「抵抗感」を既成事実のように報じ(4日付)、5日付社説では適正評価を「プライバシー侵害制度だ」と断じている。推測を重ねて事実のように報じる。安保関連法に戦争法案とのレッテルを貼ったのとウリふたつだ。
共同の誘導記事も目に余る。同法の完全施行について地方紙の社説を見ると、岩手日報が「権力監視の目を養おう」(1日付)、北海道新聞が「安保法とともに廃止を」(2日付)、沖縄タイムスが「問題多く廃止すべきだ」(4日付)などとプライバシー侵害論が少なからずある。いずれも共同の左派論調の影響が顕著だ。
だが、「全体の奉仕者」(憲法15条)で公僕たる公務員、それも国民の安全に関わる秘密情報を扱う公務員に一般国民と同じようなプライバシーを求めてよいものだろうか。そもそも適正調査はテロリズムとの関係や精神疾患の有無、飲酒の程度、借金など経済的な状況、海外への渡航歴などを調べるものだ。
漏洩すれば、国民の生命に危険を及ぼすのだから、当たり前の話だ。どの国でも秘密を扱う公務員らは同様の身辺調査を受けている。それが24人も調査を拒否した。ジャーナリズムを自負するなら、その理由をプライバシー侵害だけにとらわれず、もっと多面に追うべきではないか。記者魂を放棄し、イデオロギーに操られるようなことがあってはなるまい。
◆スパイ事件は別物か
折しも、陸上自衛隊の元陸将が在日ロシア大使館付元武官に内部資料の戦術教本を漏洩させる事件が発覚した。元武官はロシア軍の情報機関「参謀本部情報総局(GRU)」の所属とみられ、巧みに元陸将に接近したという。戦術教本は「秘」に指定されていないが、部内の秘密扱いで、元陸将は自衛隊法(守秘義務)違反で書類送検された。
明らかにスパイ事件だ。朝日は「警視庁公安部は、『ロシアによるスパイ活動の入口だ』と位置づけて捜査を進めた」とし(5日付)、毎日は「ロシアは近年、情報機関員による活動を強化しているとされ、捜査関係者によると世界各地で年間50件近いスパイ事件が検挙されている」と報じている(同)。
特定秘密保護法をもってしてもスパイ活動を防げない態勢不備の実態を改めて浮き彫りにした(本紙7日付社説)。ところが、両紙はスパイ事件と特定秘密保護法を切り離し、まるで別物のように扱っている。意図的に分離しているなら、これもイデオロギーに操られていると言うほかない。
(増 記代司)