米中の宇宙開発の協力を後押し―NW日本語版の“軟弱外交”のススメ

◆一貫して「宇宙開発」

 ニューズウィーク(NW)日本語版12月8日号に「宇宙での『中国外し』は限界」と題し、「宇宙開発 NASA(米航空宇宙局)が中国と協力することは禁じられているが存在感を強める中国を無視し続けるのは難しい」(リード文)という内容の記事が載っている。

 中国は2003年、中国人初の宇宙飛行に成功したが、その後も一貫して宇宙開発に力を入れている。03年当初、中国がその年のうちに有人宇宙飛行を行うと世界に宣言したが、当時の弊紙の記事を見ると、「中国は国威発揚と国防力強化を狙っており、世界的に宇宙戦略の時代の突入の感が強い」と論評している。

 また文部科学省関係者の「宇宙はフロンティアであり、国内政治の不満のガス抜きにもなる。事業推進を妨げる要素はないはず」というコメントがある。それから12年ほど経(た)つが、まったくその通りの展開になっている。

 かつて米ソ宇宙開発のつばぜり合いにはすさまじいものがあった。しかし中国は今、その間に正面から割って入り、宇宙大国の座を目指しているのだから、米国の心中は穏やかでない。

 記事では「NASAとホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)は現在、連邦政府の資金を使って中国の政府および企業と協力することを一切禁じられている。中国政府関係者をNASAの施設内に通すこともできない」という事実は一応、押さえられている。

 しかし、すぐさま「禁止措置は一時的だと、NASAのチャールズ・ボールデン長官は述べている。『有人宇宙飛行を望む国はどこであれ、人員を宇宙に送り込んでくれる国があるのなら、いかなる国の力も借りる』」と切り返している。

◆貴重な時間を節約?

 またISSの船長を務めたカナダの元宇宙飛行士クリス・ハドフィールドの「共通の目的は、宇宙を理解すること。共通の敵は、複雑性とコスト」というコメントを挙げ、「宇宙開発を力強く前進させている中国を含めた国際協力体制を構築することには大きな利点がある。それは資源を節約できることだ」と米中の宇宙開発の必要性を説いている。

 NWのこういった指摘は、20世紀の米ソ宇宙開発競争の時代には考えられなかったことだ。その言及の内容が米国内でも受け入れられる背景をどうみればいいのか。

 考えられることは、①米国の当事者間の認識として、そもそも米中の科学力には彼我の差があると高をくくっている②米ソ宇宙開発の時代と違って、米国の宇宙開発の予算が限られ、しかも縮小し、今後とも世論の高まりが期待できないとみている③宇宙開発は中国だけでなく、世界各国が手掛けるようになっており、互いの技術交換は時の流れである―ことなどがあるだろう。

 実際、米ソのつばぜり合いの時期には、ケネディ大統領を筆頭に、歴代の大統領が国威発揚のためにも宇宙開発を大いに進めた。政治家が先頭に立って先導し、国民も応援した。しかし当時と比べると、国策としての位置付けは限定的で、宇宙開発の当事者らが相当焦りを感じている。「国際協力を行えば、貴重な時間と予算を節約できる」というのは彼らの本音だろう。

 しかし、追う者(中国)は、宇宙開発の協力を通じ、先進技術を手に入れようとしていることは間違いなかろう。これまで中国政府に関係のあるハッカーによるサイバー攻撃によって、PAC―3、THAAD、オスプレイなど、米国の最先端軍事技術の設計図が盗まれたとみられる。中国のサイバースパイの暗躍は周知で、安全保障上決してゆるがせにできない事実だ。ここは米国の正念場で、宇宙開発プロジェクトの位置付けを明確にし、協力できる部分と安保上できないことを峻別しなければならぬ。

◆「技術管理」は厳格に

 戦後、わが国も宇宙、ロケット開発を進めてきたが、米国に追い付けなかった。それは一つに、米国は、もともとこの分野を創始し、技術管理には厳格で、同盟国にさえ提供しなかったためだ。ここらのさじ加減は米国の得意とするところで、巨大科学の分野でトップランナーとして居続けることができた理由でもある。

 NWの記事の見通しのようになし崩しに米中関係が進むなら、米国もいよいよ焼きが回ったと言わざるを得ない。

(片上晴彦)