「こうのとり」成功で日本の存在感高める宇宙開発の意義訴えた産経
◆財政の逆風下で成功
19日にH2Bロケット5号で打ち上げられた無人補給機「こうのとり」5号が24日夜、国際宇宙ステーション(ISS)に無事到着した。米露の補給機が打ち上げに失敗する中、最後の砦(とりで)とも言うべき日本の「こうのとり」だったが、今回も過去4回と同様、ほぼ完璧な打ち上げだった。
社説で論評したのは3紙。日付順に記すと、21日付産経「宇宙技術で存在感高めよ」、22日付本紙「安定した実績を積み重ねたい」、23日付読売「信頼される日本の宇宙技術に」である。
3紙とも日本の宇宙技術の信頼性の高さを評価し、先月からISSでの長期滞在を始めた油井亀美也宇宙飛行士の活躍にエールを送る。
その中で、産経は米露の補給機の打ち上げ失敗が相次ぎ、「世界の宇宙関係者からも注目されている」と指摘しながらも、「宇宙開発の意義を再認識し、ISS後の将来像を描く契機としたい」と、日本の宇宙開発の未来を冷静に見据えた論調を展開している。「今後の宇宙開発構想は『日本の存在感』をさらに高める方向で描かなければならない」ということである。
というのも、ISS関連予算に対しては、厳しい財政事情の折、年間約400億円という費用に見合った成果が見えないという批判が根強いからである。日本の宇宙開発の当面の方向性を示す宇宙基本計画でも、ISS予算は縮小の方向が示され、「こうのとりの改良型や次世代のH3ロケット開発も、低コスト化に主眼が置かれている」(産経)状況である。
だが、同紙は「費用対効果は大事だが、宇宙開発の大きな意義を見失ってはならない」と強調するのである。
◆着実な成長と対応力
同紙が指摘するように、こうのとりは将来の有人化を視野に入れて開発され、飛行士が船内で活動できる機能を既に備えている。1気圧に保たれた与圧部である。同紙は「あと一歩、開発を進めて日本が有人宇宙船を持てば、今より主体的に国際貢献を果たせるのではないか」と提案するが、同感である。
この点は、本紙でも7月26日付社説で、こうのとりの改良型や軌道間輸送機、回収機能を持たせた発展系、再利用型有人宇宙船に言及。その有人宇宙船を「テストパイロット出身の油井さんが操縦する姿」を思い描き、国際貢献と宇宙開発利用の一段の進展を期待している。
産経に話を戻すと、同紙は、日本が国際社会から信頼され、必要とされる国であるためには、「宇宙開発をはじめとする科学技術分野で貢献し、存在感を高めていくことは不可欠だ」と強調するのだが、その通りであろう。
それにしても、最近の日本の宇宙技術は、安定し着実な成果を上げている。同時に、日本の「おもてなし」に共通する細やかな対応力も発揮している。米国からの「緊急の要請にも柔軟に対処」(本紙)しているからである。6月に米国の補給船「ドラゴン」で届ける予定だった水再生装置のポンプなど210㌔の物資の輸送依頼である。
本紙によると、ISSに届ける貨物は打ち上げ4カ月前までに搭載するのが原則で、直前の積み替えや追加は限られるという。だが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では以前から搭載手順の改善や棚の隙間の活用などの工夫を積み重ねてきたこともあり、約1カ月前という直前の要請にも応えられたという。
◆読売は後継機に期待
3紙が指摘するように、こうのとりの打ち上げ成功、ISSへの物資補給により、日本の宇宙技術に対する信頼性は一段と高まりつつある。無人の宇宙船が秒速8㌔という高速で飛行するISSに安全に接近し接続されるプロセスは、米航空宇宙局(NASA)をして「ミラクル」と言わしめ、搭載量も最大で、大型の実験装置を運べるのも、こうのとりだけ。今回の打ち上げは「国際舞台での一段の交渉力強化につながる」(本紙)ものとなっているのである。
ISSは2024年までの運用延長が米国から提案されている。読売は、日本が参加延長の可否を判断するにあたっては、コストを半減させる改良型の「後継機をどのように活用できるかという視点も大切だろう」としたが、それは大規模な予算が見込まれる有人化を進める上での現実的な視点の一つでもある。
(床井明男)