民法の契約ルール改定に乗じて家族条項に浅薄な改定論を出す毎日

◆家族の有り様は不変

 お金の貸し借りや物の売買といった契約ルールを時代に合わせて分かりやすくする。法制審議会はそんな答申を上川陽子法相に提出した。

 契約ルールを定めた民法には、例えば賃貸住宅の「敷金」の規定がない。それでトラブルが相次ぐなど身近な暮らしに齟齬(そご)が生じている。答申を受け法務省は約200の規定を見直すという。契約ルールの大幅改定は1896年の民法制定後、初めてだ。

 確かに安定した社会を築くには、時に大胆な改革が必要だ。保守の政治思想家として名高いエドモンド・バークも「変更のための手段をもたない国家は、自己を保存する手段をもたない」(『フランス革命についての省察』)と述べている。その意味でも契約ルールの改定は望ましい。

 だからと言って何でもかんでも変えればよいというものではない。バークは、祖先から相続してきた法(コモン・ロー)や世代を超えて生命を得ている習慣・習俗については「ある世代が自分たちの勝手な思い込みや薄っぺらな考えで改変することは許されない」とも述べている。

 その最たるものは家族だろう。お金の貸し借りや売買には「流行」もあろうが、父母や親子、兄弟をめぐる家族の有りようは「不易」だ。勝手な思い込みや薄っぺらな考えで変えるようなことがあってはなるまい。

 ところが、民法の契約ルール改定にかこつけて毎日は家族を巡る民法規定の改定が置き去りにされているとし、「多様化する『家族のかたち』を受け入れる法整備が求められる」(2月25日付クローズアップ)と論じている。

◆離婚前提の家族示唆

 毎日が持ち出すのは1996年の法制審の答申だ。96年答申は①婚外子の法定相続分が嫡出子の2分の1とする規定の撤廃②選択的夫婦別姓の導入③女性の離婚6カ月の再婚禁止規定の改定――を求めていた。20年近くも前の答申を毎日は後生大事に主張する。

 それほど96年答申はありがたいものなのか、首を傾げる。①については2013年9月に最高裁が違憲としたため格差を解消する法改正がなされたが、批判が噴出している。フランスでは同等にした2001年の民法改定で、同時に年老いた配偶者が家を失う事態を避けるため配偶者の取り分を大幅に増やしたが、そうした配慮もしないで婚外子の取り分だけを増やしたからだ。

 これでは故人と生活を共にし、財産を形成してきた妻や家族が路頭に迷いかねない。それで自民党は妻の取り分を大幅に増やすよう法務省に検討を求めている。当然の要請だ。わが国は「法律婚」を前提に夫婦財産、親権などの権利と義務を明示し、家族を保護している。法律婚を軽視すれば、社会の根底が揺らぐ。

 ②の夫婦別姓について毎日は驚くべきことに「そもそも法律婚をして夫婦同姓となっても、離婚を選ぶカップルも少なくない」と、離婚を前提とした家族制度を示唆している。これこそ薄っぺらな考えと言うほかあるまい。

 本紙23日付社説が「伝統的家族観の破壊を助長」とするように別姓は家族破壊につながる。百地章・日大教授は産経28日付「国民の憲法講座」で、家族よりも個人を優先する夫婦別姓は、必ず親子別姓をもたらし、「家族の絆」や一体感を破壊する。それを敢えて導入するのは国による「家族保護」の義務に逆行し、憲法の精神に悖(もと)ると指摘している。

 ③の女性の離婚6カ月の再婚禁止規定は、離婚300日以内に生まれた子は前夫の子と推定する規定とともに家庭倫理と子供の権利を守るためのものだ。すなわち前夫の子供を懐妊したまま再婚するのは倫理上好ましくないし、その期間に生まれた子供に対して前夫も現夫も父親と認めなければ、子供の人権が守れないからだ。

◆子供守る義務を欠落

 ところが毎日20日付社説「多様化促す憲法判断を」は、DNA型鑑定が進歩しているとし、結婚の自由という憲法上の権利を強調している。ここでは権利一辺倒で子供を守る義務を欠落させている。

 民法の契約ルール改定に乗じた家族条項の改定論は、バークが言ったように自分たちの勝手な思い込みや薄っぺらな考えの類だ。改定は考えただけでもおぞましい。

(増 記代司)