ネット起業家の焦りも窺えるNW日本版の「宇宙ビジネス」関連記事
◆全地球カバーの衛星
ニューズウィーク日本版(2月24日号)の「新世代起業家は宇宙を目指す」と題した記事は「宇宙ビジネス」の話。宇宙空間を利用して、通信とくにインターネット技術を飛躍的に発展させ、ビジネスにつなげたいという米国の投資・起業家、企業の活動についてのリポートだ。
例えばその一人、リチャード・ブランソンなる人物が先月「高速衛星通信網の構築を目指す新興企業ワンウェブへの投資を発表し」話題になった。
「(同氏はおそらく)全地球をカバーする衛星によって、一度に数十億人を結ぶネット環境が可能になると判断したのだろう。そうなればへき地に暮らす人々や、独裁的な政府にネット接続を遮断されている人々も恩恵を受ける。実現すれば、世界情勢に興味深い影響を与えることになるだろう」「衛星を利用した地球規模のネット環境構築の試み」だと分析し、称賛している。
ほかに今後の宇宙ビジネスについて「有望なものの1つが、画像からビッグデータを取り出すというもの。プラネット・ラボなど数社がすでに取り組むこの技術は、地球全体を低軌道カメラでカバーし、農作物1本1本の生育状況、スーパーの駐車場への車の出入りを世界中で常時モニターしようという発想だ」という。
こういった壮大で果敢なチャレンジは「人工衛星打ち上げの低コスト化と技術の融合」で可能になったという。その衛星打ち上げにも、企業の投資活動が進んでいる。
「先月にはグーグルと投資信託会社フィデリティ・インベストメンツがスペースX(編集注・宇宙船の開発・打ち上げ関連企業)に10億ドルを出資すると発表。(中略)小型の低軌道衛星4000基を打ち上げる計画を表明した。(後略)今後10年で、衛星打ち上げコストは現在の1万分の1ほどになるとみられている」。再利用可能な宇宙船の開発がさらに見込まれる。
◆ネット業界競争激化
記事は「宇宙ビジネスがより身近で低価格になるにつれ(中略)テレビで宇宙ゴミ回収業者のコマーシャルが流れ、月面着陸がショッピングモールされながらにぎわっている可能性だってある」と威勢のいい文言で締めくくられている。
さすが、通信技術開発トップを自任する米国ならではという気もするが、いくつか留意すべき背景がある。
1990年代に入るまで、米国の通信業界でもインターネットに注目する企業の数は限られていたが、90年代中ごろから手掛ける企業が増加、収益を飛躍的に伸ばし、世の中を変える力となった。
ところが今日、ネットワークの爆発的進展によって、方向の見えない競争環境が作り出された。その結果、通信業界の発展の道筋が不透明になって業績にかげりも出てきている。米国の企業群も例外ではない。宇宙への投資の派手な宣伝は、夢よもう一度、という企業思惑の側面を見逃せない。記事にある「(宇宙空間は)最後のフロンティア」「新興企業の次の狙い目」というのも、スローガン的要素が多く含まれていると見るべきだ。
わが国は、衛星打ち上げ事業の進展が望まれる。また宇宙ステーションでは地上で合成できない化学物質や、新薬、食品また電子素子の画期的な発明、発見が期待されるが、日本企業の投資意欲はごく小さい。
これに対し米国や中国などは大々的に宇宙開発を行い、軍用と民間で相乗効果を狙って少なからず功を奏している。宇宙空間は安全保障の分野で重要な位置付けだ。わが国は法的シバリもあって困難なところがあるが、その制約を超えて大国に追随する宇宙開発にどう取り組むか、その政策作りで正念場を迎えている。
◆「海底探査」に投資を
その一方で、宇宙とは真逆の方向だが、わが国の海底探査技術は世界のトップランナーとして実績がある。政府はもっとてこ入れをすべきだ。海底資源は世界的に注目され、欧米のほか中国、ロシア、インド、オーストラリアなどが日本に負けじと仕掛けてくる勢いだ。
また海底掘削も得手でプレート運動や地震メカニズムの解明が進んでいる。深海探査活動は宇宙開発に比べその重要性は勝るとも劣らない。深海はもう一つの宇宙だ。エネルギーや食料不足という今日的問題に挑んで成果を出してほしい。
(片上晴彦)