春節の中国人訪日観光客の爆買いで身近な関心追った「新報道」など

◆“二極化”と報ステS

 旧正月(今年は2月19日)は中華圏で「春節」と呼ばれ、その休暇期間に円安の日本を訪れた中国人観光客の買い物風景を追うテレビ番組が多かった。ケタ違いの買いっぷりに「爆買い」と称して囃(はや)し立てた。

 冷却化した日中関係の中で気休めとなる話題ではある。――中国の尖閣諸島への領海領空侵犯、驚異的な軍拡や海洋進出、歴史問題に対する国際場裏での反日宣伝、中国国内の日本企業や商店を破壊した暴動、日本製品ボイコットなどに遭遇し、日本の国民感情は中国から引いてしまった。

 内閣府が昨年12月20日に発表した「外交に関する世論調査」によると、中国に「親しみを感じない」「どちらかというと感じない」との回答を合わせて83・1%になり、調査開始以来最高になった。「親しみを感じる」「どちらかというと感じる」の方は14・8%で最低となっている。ちなみに「親しみを感じない」「どちらかというと感じない」が8割を超えたのは2012年の80・6%で、前年比9・2ポイントの上昇だった。

 その中で今年の春節観光客にテレビ各局が注目したのは、1月に中国人の訪日ビザの年収の条件が引き下げられ、高級品に金の糸目を付けない豪勢な買い物をする富裕層に加えて大勢の中流層の観光客が訪れるようになったからだ。

 22日朝のテレビの報道番組は各々その様子を取り上げていたが、テレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」は「中国人観光客は“二極化”」と題して取り上げていた。年収1億円の富裕層の建設会社CEO(最高経営責任者)家族と上海では平均的という年収190万円程度の20代の女性2人連れを追跡していたが、リッチな旅行を楽しむ前者に対し、東京・千駄ヶ谷の格安ホテルに宿泊し、ネットの口コミ情報を調べてたどり着いた高円寺の古着店や雑貨屋で買い物をする後者の動向の方が新鮮な話題だった。

◆庶民が一服の清涼剤

 また、同番組や他番組でも脚光を浴びた銀座のバッグ店に集まった団体客らのスーツケースの爆買いだが、買い物をした商品を入れるための買い物だというのだから圧倒される。

 同日のフジテレビ「新報道2001」は冒頭で春節の中国人観光客の爆買いを取り上げた。上海から福岡に入港した豪華客船から2500人の中国人観光客が8時間の滞在中に買い物をする様子を紹介。また、成田空港の中国人観光客の取材で「今回の爆買いツアーに参加した中国人はこれまでと少し違う」とのナレーションとともに、庶民的な飲食、買い物をする風景を伝えた。

 立ち寄る店が、焼き肉バイキングのすたみな太郎や価格破壊を巻き起こしたドン・キホーテなど日本の一般消費者にとっても身近なチェーン店で、東京から北海道に飛んだ団体客はホッケの焼き魚に舌鼓を打つなど、確かに富裕層ばかりが話題になっていたこれまでとは違っていた。スーツケースにたくさん詰める商品も高級ブランドではなく、薬、化粧品、健康食品、生活雑貨など、中国人観光客の庶民性を取り上げていた。

 春節の中流層中国人観光客にテレビ局が殺到したのは、中国の一般人が自然発生的に日本に関心を持ち、こつこつとお金を貯金して、ネットの口コミなどを細かくチェックして旅行に来ている姿が、中国の反日攻勢に嫌気がさしたところに一服の清涼剤としたかったからだろう。また、「良い品物が安い」など異口同音の観光客の語りには、日頃、無意識にも良質な消費文化の恩恵を受けていたことを感じさせられる。

◆苦言を語った勝谷氏

 ただ、最近の対中感情の悪化は政治的な反日攻勢や安保問題だけでなく、環境汚染や食品衛生など公害イメージ、型破りな赤サンゴ密漁などルール違反への拒絶感も大きい。

 このような流れから見ると、23日放送の日本テレビ「スッキリ!!」で、銀座を訪れた中国人観光客のマナー違反を幾つか取り上げ、評論家の勝谷政彦氏が「中国からの観光客だらけの銀座なんて行きたくない」と語った苦言に繋(つな)がるのは、あらかじめ予見されたことだ。中国当局が新華社を通じてマナーを呼びかけても「いまさら直らない」と勝谷氏は疑念を率直に述べた。

 それでも我が国は外国人観光客誘致を推進しており、2020年に東京五輪もあるからには、例えば公衆トイレの増設など観光客がマナーを守りやすい環境を整える努力もいる。利害得失を考慮しても、売り上げが落ち込む2月の春節爆買い観光客の経済効果はうれしい悲鳴だったに違いない。

(窪田伸雄)