虚偽報道の幕引きをしても「国際社会への影響」に認識を示さぬ朝日

◆新聞の基本から再生

 朝日新聞社は昨年末までに、慰安婦報道や東電福島原発事故の「吉田調書」報道をめぐる虚偽記事の取り消しなどをめぐる問題を検証・評価する第三者委員会などによる報告書公表と、それを受けた新任の渡辺雅隆社長の謝罪会見など、一連の不祥事に対する後始末を行った。そして、年明け5日の渡辺社長の会見で「信頼回復と再生のための行動計画」を公表した。

 その詳細は翌6日付朝日が、会見で配布した文書をそのまま掲載している。行動計画は「公正な姿勢で事実に向き合う」「多様な言論の尊重」「課題の解決策をともに探る」の三つの理念を掲げ、編集から独立した「パブリックエディター」制度を新設し、報道内容を点検することなど七つの具体的取り組みを打ち出した。

 それらは特に理念は新聞の基本そのもので、いちいちもっともなことだが、改めてそれを唱えなければならないことの意味は重い。これまで「公正な姿勢」を欠き、「事実に向き合う」ことや「多様な言論の尊重」を軽視してきたことを認め、反省したことを示すから。

 こう解釈すれば、この会見をもって朝日が一連の不祥事の幕引きとするのも一応の理解がいく。渡辺社長は「行動計画の策定は全体の5%にすぎず、スタートラインに立っただけ」と語る。「残る95%はこれからやり抜く。結果は紙面で判断していただくほかない」と強調したのである。

◆国際問題には矮小化

 だが、それでもなお釈然としないものが残るのはなぜだろうか。朝日の今後については、立派な行動計画がその通りに行われれば結構なこと。問題はこれまでの慰安婦報道についての見解で、肝心のところが第三者委員会の報告を隠れみのにして、朝日自身の認識を明確に示していないこと。ならば、第三者委の報告を受け入れて自身の見解とするのか、というと、そうでもない。ただ「重く受け止める」と繰り返すだけなのだ。

 なかでも最大の問題は、朝日の慰安婦虚報による国際社会への影響について、受け止めがはっきりしないことである。これでは第三者委の報告が出ても、なお朝日のこれからに尾を引くのは避けられない。だからこそ、旧臘26日に行われた第三者委報告を受けて行われた渡辺社長への質疑は、この問題と朝日の行った強制連行の「狭義」から「広義」への「議論のすり替え」指摘への問いに集中したのだ。

 その朝日自体の認識を問われた渡辺社長の応答は、実にもどかしいものであった。それは翌27日付各紙の見出しが端的に示している。「朝日社長/社の認識 明確に示さず」(読売)、「慰安婦影響 口つぐむ/『重く受け止め』繰り返し」(産経)、「朝日新聞/国際社会への影響明言せず」(小紙)などである。

 この日の朝日紙面は、会見での配布資料「(第三者委報告を受けて)改革の取り組み進めます」を「経営と編集の関係」「報道のあり方」「慰安婦報道」の三つの柱にまとめ1ページ全面掲載した。22日の報告を受けて整理したものだが、「慰安婦報道」の中で、国際社会に与えた影響についての言及は次の部分である。

 「報告書では、岡本行夫委員と北岡伸一委員が朝日新聞などの報道が韓国内の批判的論調に同調したと指摘しました。波多野澄雄委員と林香里委員の検証結果はいずれも、吉田証言記事が韓国に影響を与えなかったことを跡づけたとしました。林委員はまた、朝日新聞の慰安婦報道に関する記事が欧米、韓国に影響を与えたかどうかは認知できないとしています」  全体として、報告が国際社会への影響について、あまり影響せずとし問題の矮小(わいしょう)化を図った疑いが残る。第三者委報告では、このテーマ(項目[12]で)の項だけ前記4委員の見解が、岡本、北岡の両氏と波多野氏、林氏の三つの報告として併記している。

◆日韓交渉に利用図る

 その中で、例えば波多野氏は朝日が引用した前記の言及もあるが、他方で92年1月11日付「軍関与示す資料」発見の記事を示し「朝日の報道は宮沢訪韓にも影響を与え、韓国は対日交渉への利用を企図していた」と指摘する。しかも、社長会見の26日付読売波多野氏インタビューでは、この点を特に強調している。朝日の波多野氏報告の引用が適切だったのか疑問が残るのである。

(堀本和博)