新年号で代わり映えしない健康モノなどのテーマが並んだ新潮連載
◆科学エッセーも一服
新聞では読者の購読を切らさないよう、連載小説に力を入れてきたが、週刊誌でもそれをまねて売れっ子作家の内田康夫らを起用して成功した例もある。しかし、週一で読ます実力もあり、器用な作家が最近はなかなか見つからないこともあって、連載物も「数撃ちゃ当たる」で、インタビューやエッセー、コラムなどの連載が目白押し。読者を引きつけて離さない定期物が当たればしめたものだ。
ところが週刊文春や新潮の正月号(1月1・8日号)を見ると、今後はその内容いかんだが、テーマをうかがう限り代わり映えせず、今年、これがいけるという特段の売り物の新連載はなかなか見当たらない。
新潮の新連載は3本。1本目の「PTに訊け!『全身改造』」(中村ジェームズ修一)は、中年の体力アップをめざしメタボ解消術を指南するいわゆる健康モノ。ちなみにPTはパーソナル・トレーナーの略で、初回は「失敗しない肉体改造とは」。2本目の「反オカルト論」(高橋昌一郎)の初回は「スピリチュアリズムの起源はイタズラ!」がテーマ。歴史的に欧米の「交霊会(死者との交信)」からスピリチュアリズムが展開したという内容でいわゆる「霊」についての薀蓄(うんちく)だ。
3本目は科学作家、竹内薫の「もう一度ゼロからサイエンス」で初回のテーマは「半導体と発光ダイオード」。竹内は前号まで同誌に連載していたが、別のタイトルで続投となった。2008年、南部陽一郎ら3人の日本人物理学者が「対称性の破れ」理論でノーベル賞を受賞。宇宙の神秘や素粒子世界について、国民の関心が一気に高まり、この件で単行本が相次いで出版された。
竹内はもともと、素粒子の専門家で、講談社のブルーバックスの執筆者として鳴らし、科学エッセーで定評があったが、この時期にテレビ、新聞などに登場、一躍全国版の顔になった。週刊誌もこの機を逃さず、新潮は竹内を、文春は生物学者の福岡伸一を起用し、今日の科学エッセー花盛りの先駆けとなった。竹内も福岡もネタの引き出しが多く、分かりやすく説明して好評だった。
ただし5年ほどを経ると、いかに一流の書き手でも週一は、厳しく、一服感がある。あえて言えばマンネリ気味だ。福岡のコラムのテーマは最近はもっぱら、留学した米国の話で、その街や人との出会いの印象記になっている。また竹内もいよいよネタ切れの感があって、今回、別タイトルの再出発となった。科学をテーマにしたコラムやエッセーは週刊誌で定着してきたが、2人の後続にふさわしい書き手が現れていないということだろう。
◆阿川の聞く力は健在
ほかに今年も続く新潮の「戦国武将のROE(交戦規則)」。執筆者の本郷和人はざっくばらんな語り口で、NHKテレビなどでも人気の東大教授。博覧強記で、毎回歴史の薀蓄を披露してくれるが、読者は相当の歴史通で、素養がなくては噛(か)み切れないうらみがある。本郷の週刊誌への登場も、歴女ブームや、Eテレ「さかのぼり日本史」など日本史への関心の高まりがあった時期だ。ネタは尽きないようだが、さて歴史ブームは今年も続くか。
超整理学をテーマにヒットを飛ばし、大学教授でもある野口悠紀雄も週刊誌に連載物を手掛けている。新潮の「世界は数字でできている」は、世界史、宇宙史の中で、数字の持つ力、意義を語り人気があった。これに勢いを得て、昨年夏場から同誌に「世界史を創ったビジネスモデル」を始め、今年も続投のようだが、毎回テーマを変えての連載はさすがきつそう。
一方、文春は人気作家の百田尚樹が江戸時代後期に活躍した囲碁棋士・井上幻庵の話「幻庵」を始めた。文春では阿川佐和子の「この人に会いたい」が看板の連載だ。阿川は「聞く力」のベストセラーなどで脂が乗っていて、この連載は今年も健在のよう。ただし、ゲストのほうに、阿川に応えられる人を、週一で見つけられるかどうか、こちらのほうが心もとない。阿川は聞く力はもちろん、対手から引き出す力も優れているが、芸能人相手ではそれも限界があると感じられる回が何度かある。
◆時代の気運つかめず
科学エッセー、歴史物、人気作家の連載にしても、いかに時代の気運をつかんで、時を逃さず、誌面に登場させるかが、編集者の腕の見せ所だ。しかし今の時代のテーマを掴(つか)みかねているというのが、新連載のラインアップを見ての感想だ。(敬称略)
(片上晴彦)