2014年を振り返る特番で朝日新聞誤報問題を避けたテレビ各局

◆池上氏のみ朝日扱う

 毎年、年末になるとテレビはバラエティーや歌番組、スポーツの特番が目白押しになる。

 その影響で普段の報道番組は休みになることが多いが、「今年のニュースを振り返る」といった趣旨で特番を組むテレビ局も多い。

 例えば昨年末では、NHK「ニュースハイライト2014」(26日)や、テレビ朝日「池上彰2014総ざらい」(29日)、同「ワイド!スクランブル年末SP」(29日)、TBS「報道の日2014」(28日)などがそれだ。

 しかし、この中で昨年大きな注目を集めたニュースの一つである「朝日新聞誤報問題」を扱ったのは、池上彰さんの番組だけだった。各局は昨年のニュースのうち、朝日誤報問題は些細(ささい)なことだったと思っているのだろうか。

 図らずともコラム掲載拒否問題で当事者となった池上さんは、朝日問題を解説する際、「今年起きた大きなニュースなんだから、取り上げなければいけない」と語っていた。他の番組はこの声をしっかり受け止めてほしい。

 池上さんは5時間特番の中で、約25分間を割いて朝日誤報問題を解説。朝日新聞の慰安婦報道を検証していた第三者委員会で見解が分かれた、朝日報道が国際的に影響を与えたかどうかについては「日韓両方の国民感情がどんどん悪化していく結果をもたらしたことは言える」と述べ、影響を認めた。

 しかし、番組はその後のナレーションで「(第三者委員会の報告では)国際的な影響は限定的など様々な見方があるとされている」などと付け加えていた。池上さんが影響を否定しなかったので、わざわざテレビ局側で朝日報道が国際的に与えた影響を少しでも薄めようとしている印象だった。

◆ベスト50からも外す

 一方、同じテレビ朝日でも、池上さんの番組の数時間前に放送された「ワイド!スクランブル年末SP」で発表された14年のニュースランキングベスト50では、朝日誤報問題はランクインしなかった。

 この問題は一時的なニュースではなく、8月5日付の「吉田証言」に関する16本の記事の取り消しから始まって、「吉田調書」の誤報で9月に木村伊量(ただかず)社長(当時)が謝罪会見、その後辞任、渡辺雅隆新社長の就任会見、12月に入っても第三者委員会の会見、渡辺社長が見解と取り組みを発表した会見、と立て続けに話題になった。

 同番組のランキングとは、番組内で扱ったニュースのうち放送時間を基にランク付けしたものだという。普通に報じていれば、これだけ会見が続けば放送時間の集計で少なくとも50位以内には入るはずだ。

 ちなみに、小紙の10大ニュースでは朝日新聞誤報問題は3位。産経新聞では1位、読売新聞の読者が選ぶランキングでは13位だった。

 朝日誤報問題が50位にも入っていないというのは、いかに番組が意図的にこの問題を取り上げてこなかったかを物語っている。

 そうなると、テレビ朝日が池上さんの番組で朝日問題を扱ったのも、本人が司会を務める番組だから取り上げざるを得なかったと考えるのが自然だろう。

 当事者の池上さんが出演しているのに番組で紹介しなかったら不自然だし、何より意図的に取り上げないと視聴者から批判の声が殺到する可能性もある。

 果たして、本当にテレビ朝日が朝日誤報問題を問題視しているのか疑問だ。

◆マスコミ批判及び腰

 かつて、マスコミがマスコミを批判することはタブー視されていた。

 12月26日に行われた朝日新聞の渡辺社長会見では、大手メディアで質問したのは読売新聞と産経新聞だけだった。渡辺社長は核心部分になると回答を明確にせず、あいまいな態度を貫いたが、他の大手新聞も通信社もテレビ局もそれを追及する気はまったくなかった。

 不祥事を起こした政治家や会社が会見でそうした態度だったら、いつも舌鋒(ぜっぽう)鋭く追及するはずの記者たちも、朝日新聞については及び腰なのだ。

 最初に紹介したように昨年の大きなニュースとして朝日誤報問題を取り上げなかったのは、テレビ朝日だけではない。NHKもTBSも14年を振り返る番組で外してあるのだ。

 年の瀬の報道特番から、多くのマスコミ内で、いまだにマスコミ批判をタブー視している雰囲気があることを感じた。

(岩城喜之)