あくまで「朝日批判対策」だった誤報検証の第三者委員会報告書発表
◆後追いを避ける計算
どうやらこれでケリを付けたつもりらしい。朝日の慰安婦報道をめぐる虚偽問題についてだ。朝日報道を検証していた第三者委員会は22日に報告書を発表し、これを受け渡辺雅隆社長が26日に記者会見し、改めて謝罪した。
だが、その中身は「国際社会への影響 明言せず」(本紙)「社の認識 明確に示さず」(読売)「『強制性』見解示さず」(産経=いずれも27日付)と、歯切れの悪い内容だった。 そもそも社長会見が26日の金曜午後というのが疑問だ。各紙が論評するのは土曜日付になる。それも年末休みに入った日だ。テレビにも朝日問題を追う番組がない。そう言えば、第三者委の会見は天皇誕生日の前日だ。こうした話題になりにくい日程を計算し尽くして決めた? そう考えるのは穿(うが)ちすぎか。
朝日の念頭にあるのは保身のようだ。第三者委の報告によると、編集担当が朝日批判対策のために慰安婦報道について秘密裏に下調べしようとしたのは2012年5月のことだ。動機は真実の追求でなく、あくまでも「朝日批判対策」だった。
今年2月頃、社内で政府が河野談話の見直しを始めれば、改めて過去の報道姿勢も問われるのではないかとの危機感が高まり、3月に検証チームを作った。当初は6月下旬に検証記事を掲載予定だったが、新聞集金の時期や週刊誌の夏季特集合併号の発行と重なるため延期、8月5、6日付朝刊に掲載した。
これも集金や週刊誌の売り上げへの影響を最小限に抑える姑息(こそく)なやり方だ。月初めなら集金も終わっている。12月の集金は18日から始めており、26日なら粗(あら)かた終わっているという計算か。
その8月の検証記事も7月中旬までは1面に「訂正しておわび」するとの紙面案を作成していたが、木村伊量(ただかず)社長(当時)が反対し、お詫び抜きの記事となった。「朝日を攻撃する勢力に更に材料を与える」というのが理由だ。
◆「角度をつける」偏向
まさに「読者より組織防衛」(毎日23日付)。真実の追求はここにもない。第三者委の中込秀樹委員長は会見で「検証記事は、読者に説明するために出したというより、さまざまな朝日新聞に対する慰安婦問題での攻撃を受ける中で出した、自己防衛的な側面が大きい」と述べている(産経23日付)。
ジャーナリストの池上彰氏のコラムは木村社長が掲載に難色を示し、「池上氏の連載打ち切りのリスクよりも、コラム掲載のリスクの方が高い」(編集担当)としてボツにした。にもかかわらず木村氏は9月の記者会見で平然と「私の指示ではない。取締編集担当にゆだねた」と虚偽発言を行っている。何とも卑劣な経営トップだ。
だが、虚報報道の本質はあくまでも捏造(ねつぞう)・虚報を繰り広げた編集の当事者だ。第三者委は記者らの「意図・動機」について十分に解明していない。ただ報告書の個別意見で岡本行夫委員(外交評論家)は、同委のヒヤリングで何人もの朝日社員から「角度をつける」という言葉を聞いたとしている(朝日23日付)。
「真実を伝えるだけでは報道にならない、朝日新聞としての方向性をつけて、初めて見出しがつく」と弁明したそうだ。出来事には朝日の方向性に沿うように「角度」をつけて報道する。慰安婦問題だけでなく、原発、防衛・日米安保、集団的自衛権、秘密保護、増税等々、方向性に合わせるためには原発事故の「吉田調書」報道のようにつまみ食いもすると岡本氏は指摘する。なるほど朝日は自らの偏向を「角度」と呼ぶわけだ。
◆運動体に陥った朝日
北岡伸一委員(国際大学学長)も個別意見で、「粗雑な事実の把握」「キャンペーン体質の過剰」「物事をもっぱら政府対人民の図式で考える傾向」「過剰な正義の追求」「現実的な解決策の提示の欠如」「論点のすり替え」の具体例を列挙し、「自らの主張のために、他者の言説を歪曲(わいきょく)ないし貶(おとし)める傾向」を問題視している。
「新聞社は運動体でない」(岡本氏)。だが、朝日は運動体に陥っている。言うまでもなく共産主義の運動体である。ここから脱却しなければ朝日再生はない。戦後70年の来る2015年、その真偽が明らかになろう。
(増 記代司)