「はやぶさ2」に期待するも「次」の計画なしに寂しさを示した各紙

◆日経は人材育成強調

 数々のトラブルを乗り越え、史上初めて、小惑星の砂を持ち帰った初代「はやぶさ」の帰還から4年半。その後継機「はやぶさ2」が、今度は水や有機物を含むとされる小惑星「1999JU3」に向けて飛び立った。約3年半後の2018年に到着し、観測や試料採取の後、20年暮れに帰還する。6年間、約52億㌔の壮大な航海である。

 新聞も大きく取り上げ、ニュースはもちろん、社説でも本紙を含む5紙が論評を掲載、打ち上げ成功を祝すと同時に無事の帰還にエールを送った。

 日付順に社説見出しを列挙すると、毎日(4日付)「宇宙の旅を応援したい」、本紙(同)「フロンティアの開拓を期待」、産経(5日付)「『初代』超える重責果たせ」、読売(6日付)「生命の起源探る壮大な旅だ」、日経(同)「産業と人が育つ宇宙政策を」である。

 日経は見出しこそ、「はやぶさ2」への直接的な表現ではないが、文中では「目的を果たして地球に無事に帰還できるよう、…関係者の努力を期待したい」「小惑星探査によって、生命や太陽系の始まりに関する新たな知識が得られるそうだ。科学の発展に貢献するのは大切だ」とその意義を説く。

 日経の見出しは、「意義はそれだけではない」として、「宇宙探査を通じて厚みのある宇宙産業と優れた科学者、技術者を育てる意味がある」と強調し、こちらの内容を取ったのである。

◆朝毎が安保面を批判

 日経が見出しに「宇宙政策」を採ったのには、わけがある。年内に閣議決定される予定の新しい宇宙基本計画への視点である。

 公表されている新計画の素案は、中国や北朝鮮など日本を取り巻く安全保障環境の厳しさや宇宙分野での日米協力の機運の高まりなどから、宇宙政策の目標として、安全保障能力の強化や日米同盟の深化など「宇宙安全保障の確保」や、衛星測位や遠隔観測など「民生分野における宇宙利用の推進」などを掲げている。

 安全保障面が前面に出てきたため、「安全保障に偏りすぎだ」(毎日11月8日付社説)や「安保色が強すぎる」(朝日11月18日付社説)など朝日、毎日が批判し、宇宙科学への予算を圧迫するとの懸念も出ているのだが、日経は「二者択一の議論に陥ってはいけない」との視点である。

 日経などが指摘するように、「宇宙からの領海監視などは海外では当然であり、宇宙の平和的な利用の原則に背くものではない」からである。

 朝日、毎日は科学と安全保障の「バランスの取れた宇宙政策を」と主張するが、もともと、宇宙基本法(2008年)ができるまでの日本の宇宙政策が、研究開発偏重で安全保障を目的とした宇宙利用を縛った、著しくバランスを欠いたものだったのである。

 日経の視点は、欧米では民間の事業意欲を喚起し宇宙への投資拡大を促しているが、日本は科学であれ安全保障であれ今の宇宙開発は官需依存であり、「問題は政府予算が産業や人材の育成に効果的に生かされているか」という問いかけである。

◆共同開発勧める読売

 今回、見出しで「はやぶさ2」を直接的に評した産経も、新計画については日経同様、「安保か科学か」という議論を超えて、「より広い視野で宇宙政策をとらえる必要がある」と説く。

 「国の政策が安全保障を主軸に据えるのは当然だ」が、科学についても、「人類の共通財産である科学で成果をあげることは国の力となり、成長の種となる。国民に夢を与え次世代の人材を育む教育の源泉でもある」との同紙の指摘は尤(もっと)もである。

 ただ、素案は今後10年間で中型科学探査機を3機、小型探査機を5機打ち上げることを盛り込んでいるが、具体化しているのは「16年に打ち上げる日欧共同開発の水星探査機以外にはない」(読売)。産経や毎日が指摘するように、はやぶさ2に続く日本独自の探査計画が具体化していないのは、やはり寂しい。

 産経は「宇宙・科学政策は短期的な成果や費用対効果だけにとらわれてはならない。骨太の長期構想を、政府は掲げるべきである」と主張するが、もともと厳しい予算の中では、読売が提案するように「海外との共同開発をさらに検討するなど、探査機開発の効率化を図っていく必要がある」ということなのか。

(床井明男)