富士山噴火に古文書記録と地中の異変を追い現実性示した「新報道」

◆一昔前なら科学番組

 今年は自然災害の猛威に見舞われた一年だ。2月の首都圏の大雪、8月の広島市を襲った豪雨と土砂災害、9月の御嶽山噴火……12月に入っても各地で雪害が発生しており、改めて我が国が自然災害列島であることを思い知る。

 これら災害のたびにテレビでは関係する専門家らの出番となったが、14日放送のフジテレビ「新報道2001」はこれら専門家を招いて「歴史に学ぶ富士山大噴火の危機」というユニークな特集を組んでいた。災害が起き痛々しい現場を中継すれば、スタジオの専門家らも沈鬱な口調になるが、危機の想定ならば研究と知識を発揮し、防災に資する発言も活発になる。

 江戸時代の宝永噴火(1707年)の記述がある「岡本元朝日記」を書いた秋田藩記録係の岡本元朝など4人の古文書について、磯田道史・静岡文化芸術大学教授は「江戸時代は非常にリテラシーが高い。彼らが記録した直接体験は信用できる」と太鼓判を押した。

 確かに読み上げるナレーションは時代的な文語調ながら、予震、噴煙の高さ、火山灰の広がりなど生々しい。その様子をスタジオの富士山のモデルで表現し、これにCG(コンピューターグラフィックス)による再現映像、宝永噴火火口の空撮などが加わり、現実感を高めた。

 さらに、平安時代の貞観(じょうがん)噴火(864年)については、「日本三代実録」の「一里、二里、四方の山を焼き尽くした…」を引用。ハワイのキラウエア火山型の噴火で山腹の至るところから溶岩が2年ほど流れ出したという。キラウエア火山の実写とCGで連想すると、貞観噴火の方に恐ろしさを感じた。一昔前の番組なら歴史アドベンチャーか、現代に摸するSF的な科学番組となろう。

◆専門家は活動を指摘

 しかし、報道番組が「富士山大噴火」を取り上げるのは、富士・箱根の地中に異変があり、その可能性が近づいたとみたからだ。箱根・大涌谷北斜面で高温ガスが発生して山火事の跡のように木々が枯れている様子や、富岳風穴の氷のつららが溶けるなど地中温度が上昇している状況を追っていた。温泉地学研究所を訪ねた番組によれば、東日本大震災から火山活動が活発化し、箱根の地下10㌔㍍にマグマが溜(た)まり山を膨張させているという。

 このような事実はマスコミであまり目にしない。むしろ富士山の世界遺産登録を褒めそやし、観光客誘致に熱を上げる企画が多い。氷が溶ける風穴に外から氷を運んで置いてある場所も映されたが、ここまでするほど観光産業に結び付いているため、噴火災害の心配を煽(あお)るのを控えてきたのだろうか。正月の駅伝や温泉で有名な箱根も首都圏から身近な観光地であり、修学旅行の生徒も往来する。

 富士山の異変に「いつ噴火してもおかしくない」という武蔵野学院大学・島村英紀特任教授が、東日本と西日本の境目にある「フォッサマグナ」に東日本大震災で応力が溜まったとの見方を示していた。

 フォッサマグナは地質学的な溝のことを言い、古い時代の岩石の溝に新しい時代の岩石が溜まった地層で、新しい時代の地層は弱くマグマが噴き出しやすいため火山ができる。富士、箱根、御嶽山などがそのような火山だという。京都大学の鎌田浩毅教授は、東日本大震災後「20個ぐらいが火山活動に入っていて、富士山も含まれる」と述べた。

◆期待したい噴火予知

 宝永噴火の教訓は東京(江戸)への火山灰降下だが、非常に細かい粒子で目鼻口を通した健康被害や、電機・IT機器、飛行場など交通への影響を専門家は口々に指摘。御嶽山救援活動でも降雨後はぬかるみ、乾けば固まる難物という。火山灰が広く首都圏を覆うと、便利なインフラが裏目になり「もっと多様な被害が及ぶだろう」と山村武彦・防災システム研究所所長は述べていた。

 番組では、内閣府が想定した宝永噴火を今日に想定した被害総額を2兆5000億円と紹介したが、「被害総額は実際には想定不能」(長尾年恭・東海大学地震予知研究センター長)というのが実際のところであろう。議論を聞くうちに噴火したら打つ手なしの思いになる。

 予知に期待したいが、古文書でも噴火の前には地震が続く予兆があったという。フィリピンはピナツボ火山噴火に際し警報を出して37万人を避難させ人的被害を防いだ例を山村氏は指摘したが、我が国はどこまで対策が可能であろうか。少なくとも火山灰に備えて専門家らの勧めであるゴーグルや耳栓、マスクの購入ぐらいはしたくなった。

(窪田伸雄)