日本人の底力を示す次世代の乗り物技術に「夢」を描くエコノミスト

◆水素やリニアに注目

 自動車、新幹線をはじめとして日本の輸送技術が世界で高い評価を受けていることは周知の事実。その安全性、技術力は世界を席巻するものがあるが、ここにきてさらに世界の注目を集める次世代の乗り物がある。具体的には水素自動車(燃料電池車)、リニア新幹線、国産ジェット旅客機である。

 ちなみに12月15日、トヨタ自動車は水素と酸素を反応させて電気をつくり、それを動力として車を走らせる水素自動車「MIRAI(ミライ)」を発売した。CO2を排出しない「究極のエコカー」として同社が開発から商品化まで20年かけて作り上げた代物である。一方、超電導技術を使って走るリニア新幹線が商用化に向けて動きだした。JR東海が2027年の東京―名古屋間でのリニア新幹線営業開始に向け17日に着工した。航空分野では三菱航空機が海外の航空会社に対し、同社開発の民間小型旅客機「MRJ」の17年納入に向け着々と準備を進めている。いずれも日本が誇る世界トップレベルの技術を注入した製品で、まさに産業革命に次ぐ現代の「交通革命」に匹敵すると言っても過言ではない。

 こうした日本の“乗り物”産業に焦点を当てて週刊エコノミスト12月19日号が企画を組んだ。特集のテーマは「水素車・リニア・MRJ」。元来、自動車、鉄道、航空機は多くの技術を結集させて製品化していく裾野の広い産業といわれている。ましてや水素エネルギーや超電導といった次世代技術を使った乗り物が一般化されれば、その技術が汎用(はんよう)化され、経済波及効果は膨大なものになる。

◆波及効果生む商用化

 従って、これまで経済誌は事あるごとに水素自動車やリニアモーターに関する特集を組んできた。例えば、リニア新幹線では週刊東洋経済が5月31日号で、「リニア革命~今世紀最大のプロジェクト」と題して取り上げた。水素自動車については、週刊ダイヤモンドが10月20日号で「トヨタを本気にさせた水素革命の真実」として特集を組み、エコノミストは8月26日号で「水素・シェール・藻~ゼロから学ぶ水素&燃料電池」を特集し、すでに次世代エネルギーとして水素に着目していた。

 今回、エコノミスト12月19日号が水素自動車やリニア、MRJに焦点を当てたのは、前述したように商用化に向けて動きだしたからである。水素自動車に関して言えば、トヨタは来年度400台を販売することにしているが、今後、水素自動車はさらに増えていくことは確実。というのも、ホンダは15年度中の発売をすでに公表し、日産、スズキも開発を進めている。業界では東京五輪の20年には5万台、30年には40万台に拡大すると予測する。

 一方、リニア中央新幹線は東京―名古屋間を時速500㌔、40分でつなぐ「夢の超特急」。大阪までつながれば東京―大阪間の所要時間(45年開業予定)は67分となり、まさに巨大な“通勤圏”が誕生することになる。もっとも、建設費も膨大で東京―名古屋間が5・4兆円、東京―大阪間なら9兆円近くに上る。それでも開通すれば主要都市以外にも経済波及効果が広がるのは確実だ。

◆GDPの伸びを強調

 同誌が強調するのは、航空機のMRJを含めて、水素自動車やリニア新幹線が国民に「夢と希望と誇り」を与えるのは、何よりもそれらが「日本のものづくりの懐の深さに支えられている面が大きい」ということである。すなわち、いずれの乗り物も今後に向けて乗り越えるべき課題は多いが、少なくとも一朝一夕に出来上がった技術ではないということ。トヨタが水素自動車を開発し始めたのが1992年。国産の航空旅客機として開発したMRJは、1973年に生産を終えた双発ターボプロップエンジン方式の「YS11」以来で40年ぶり。リニアモーターカーに至っては研究開始が1962年に遡り、50年以上の歳月をかけてきた。さらにこれらの開発の背景には単に一社、一グループによるのではなく、多くの企業が関わっていることである。

 例えば、トヨタが売り出す「MIRAI」の開発には13企業の技術が結集されているという。航空機に至ってはその数はさらに多くなる。エコノミストは「トヨタ、三菱航空機、JR東海が歩みだした方向は、乗り物産業全体が日本のGDP(国内総生産)を大きく伸ばすことでもある。その動きが今、活発化しようとしている」と結論付けるが、今回の同誌の特集は日本人の粘り強さと日本の底力を示す記事となっている。

(湯朝 肇)