朝日誤報問題を真摯に議論しないマスコミ倫理懇を扱う朝・毎記事
◆「吉田調書」虚報は?
新聞社や放送局などでつくるマスコミ倫理懇談会全国協議会の第58回全国大会が9月下旬、松江市で開かれた。「岐路に立つ社会でメディアに求められるもの」をメーンテーマに、102社286人が参加して議論を交わしたという(各紙26日付)。
それを朝日は「原発報道などに活発な意見」(30日付)との見出しで、メディア欄で詳しく報じている。原発報道とあるから、てっきり例の朝日の「吉田調書」虚報が論議されたのかと思いきや、それがどこにもない。もうひとつ原発報道をめぐってはテレビ朝日の「報道ステーション」が川内原発の安全審査について誤報を垂れ流した問題があるが(本欄21日付参照)、この論議も見当たらない。
朝日によれば、原発報道で議論が集中したのは漫画「美味しんぼ」をめぐる問題だという。「美味しんぼ」は主人公が鼻血を出す場面や「福島にもう住めない」との学者の発言などを掲載し、科学的根拠がなく風評被害を助長すると批判された。
だが、記事には当事者の小学館社長室顧問の「物語はフィクションだが、事実関係はノンフィクション。問題提起になればと思った」との言い訳じみた発言を紹介し、これに福島民報の報道部長が「漫画は問題提起になったと感じた」と同調したかのように書く。いずれも「問題提起」に焦点を当て、まるで「美味しんぼ」を庇(かば)うかのようだ。
◆「漫画」批判は書かず
これが「活発な論議」とは言い難い。当時、読売や産経、週刊誌は「風評助長する非科学的な描写」(読売5月13日付社説)などと痛烈に批判していたからだ。そうした批判の発言があってこそ、「活発な論議」のはずだが、記事には書かれていない。
それに福島民報の報道部長の発言も、そこだけ“つまみ食い”しているとしか考えられない。「美味しんぼ」問題で同紙は科学的根拠のない表現を批判し、風評被害を危惧していたからだ。どうも朝日の記事は胡散(うさん)臭い。
実際はどうか。毎日29日付のメディア欄にもマスコミ倫理懇の議論が載っているが、そこでは社長室顧問の発言に対して「『漫画でも科学的根拠に基づき描くべきだ』『問題提起としてよかった』など賛否両論の意見が出た」とある。やはり批判意見があったのだ。それを朝日は一切書かず、「活発な論議」とするのみだ。朝日は「美味しんぼ」の描写を擁護していたから、自分の主張にあった意見だけを載せ、異論を封じてしまったようだ。なにやら慰安婦虚報での池上彰氏に対する言論封殺を思わせる。
一方、毎日メディア欄は特定秘密保護法の論議に焦点を当て、「情報源の萎縮懸念」との見出しで、現実に起きている報道をめぐる公的機関との「せめぎ合いの報告」があったと書く。それは琉球新報が今年2月、沖縄県石垣市に陸上自衛隊の整備部隊の候補地があると報じ、防衛省から抗議を受け、日本新聞協会にも「報道倫理に反する」との文書が届いたことだという。
◆問題報道には言い訳
毎日は「(琉球新報の)松元剛編集局次長は『(政府が)新聞協会にまで抗議したのは、秘密保護法を視野に入れて、圧力をかける姿勢を示したのだろう』と話した」とし、これをもって秘密保護法をめぐる「せめぎ合い」としている。
事実誤認も甚だしい。琉球新報の報道は、陸自誘致が焦点となっていた石垣市長選の告示日(2月23日)で、陸自誘致に前向きな保守現職を狙った選挙妨害の疑いがもたれた。候補地は決まっておらず、それで防衛省は事実無根と抗議したのだ。
新聞倫理綱領には「正確・公正で責任ある言論」とあり、放置すれば、選挙の中立性も損なう。にもかかわらず、琉球新報と共産党の息が掛かった新聞労連は「報道への弾圧」と強弁している。マスコミ倫理懇がこれに同調し、琉球新報の意見だけを報告させたとするなら、大いに問題だ。
また朝日には「本社慰安婦報道も取り上げる」とあるが、これも「も」で、主ではなく従の扱いだ。朝日のみならずマスコミ全体の信頼性が地に落ちたというのに、マスコミ倫理懇はこれを「付け足し」のように論議している。マスコミ倫理懇の「倫理」とはいったい何なのか。国民の意識から懸け離れている。
(増 記代司)





