小紙で北ペースの日朝交渉に警告と仕切り直し求めた中山元担当相
報告先送り各紙糾弾
北朝鮮による日本人拉致被害者らの再調査の進捗(しんちょく)状況を話し合うために開かれた日朝局長級協議(中国・瀋陽で9月29日)で、拉致被害者の調査結果の速やかな報告を求めた日本側に対し、北朝鮮側は「(再調査は)初期段階であり、具体的な調査結果を報告できる段階にはない」とした上で、詳細は日本側が訪朝して特別調査委員会メンバーから直接聞くように求めた。協議は、再調査の初回報告が当初「夏の終わりから秋の初め」で合意していたのに、北朝鮮側が先送りしてきたために、日本側が経緯の説明を求めて開かれたものだ。
今回、北朝鮮側が求めた外務省幹部らの平壌派遣について、外務省は当初は派遣する方向で検討が伝えられたが、拉致被害者家族や関係者の大半が派遣に強く反対しているため、慎重に時間をかけて対応を調整することになった。
外務省幹部らの平壌派遣については新聞論調も割れている。
まず、北朝鮮の再調査の初回報告の先送りについては、非難の論調(社説、主張)で一致した。「被害者家族の心情を弄ぶような駆け引きは到底、容認できない」(産経7日)、「北朝鮮は駆け引きをすべきではない」(毎日1日)、「より多くの見返りを狙って、情報を小出しにするのは北朝鮮の常套(じょうとう)手段だ。そうした時間稼ぎを続けることは、許されない」(読売1日)のである。朝日(7日)でさえも「北朝鮮側の誠意のなさには、強い腹立たしさを禁じ得ない」と糾(ただ)したのだ。
そもそも、北朝鮮は「拉致被害者の現状について、再調査の必要もなく把握している」(産経1日)ことは自明のこと。「宋(ソン)日昊(イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使は9月初め、共同通信の取材に、いつでも調査結果の報告が可能と語っていた」(毎日1日)のだから。
「行動」原則問う読売
合意の実行を先送りするという不誠実さを示した北朝鮮に、どんな対応をすべきか。
臨時国会で、全ての拉致被害者の帰国という成果に繋(つな)がっていくように「『行動対行動』の原則を貫く」と述べた安倍晋三首相の方針から「拉致被害者の帰国に向けた具体的進展がない限り、制裁緩和や訪朝を検討する必要は全くない」と産経(1日)は主張した。一切の妥協をすべきでないとの主張は明確である。
不誠実な北朝鮮に対する思いは同じだが、読売は「どんな措置を取るのが効果的なのか、慎重に見極めることが重要」とし、菅官房長官の(北との)「扉は簡単に閉ざさない方がいい。対話と圧力の姿勢で」の発言を紹介。暗に外務省幹部らの平壌派遣には応ずることを示唆し、その上で「行動対行動」の原則貫徹を求めた。北朝鮮の対応次第では「制裁を復活させることも選択肢」とし、政府のしたたかな外交に、なお期待をかけたのだ。
小紙(3日)も「何も情報がない中で訪問すれば北朝鮮のペースに乗せられかねない」と危惧されるから、事前に制裁再発動を準備し「訪朝で成果がなければ、対北制裁を復活すべき」だとした。
「総合的に状況を見れば、日本政府はあえて担当者を派遣すべき」とはっきりと言う朝日には、政府が北朝鮮に翻弄(ほんろう)されただけで成果なく終わった場合に「制裁復活せよ」の担保の言及はない。
それでも、北朝鮮を取り巻く状況は、南北関係の急進展は考えにくい上に、米国とは対話再開の糸口も見いだせていないなど「日本との関係を簡単に断てない状況に変わりはない」と分析。常に「行動対行動」が原則の日朝交渉で「不誠実な態度のままでは見返りを出すことは一切あり得ない」と言い切った。その上で、被害者家族からの派遣に否定的な声に理解を示しつつ「政府は直接交渉に果敢に取り組み、再び家族らが希望を抱けるように努めてほしい」と結んだのである。
「北の戦術」に深慮を
なお、論調とは別に小紙(7日)に元拉致問題担当相・中山恭子参院議員(次世代の党)のインタビューが掲載された。その中で中山氏は「5月の日朝合意以降、北朝鮮の一連の動きには明確な戦術があり、北朝鮮のペースで交渉が行われ……日本の制裁措置を解除させた」「今の形を断ち切る必要がある。……なし崩し的に交渉を続ければ、制裁解除、人道支援と譲歩に譲歩を重ね、それでも拉致被害者救出に至らないだろう」と警告している。産経の主張とともに、政府は深慮しなければならない。
(堀本和博)