「慰安婦」「原発」誤報の対処でもイデオロギー優先体質が露呈した朝日

◆機能不全に陥る朝日

 9月中旬のことだが、神奈川県在住の知人から、郵便ポストに入っていたという読売新聞社のB5判の小冊子を頂いた。タイトルには「朝日『慰安婦』報道は何が問題なのか」とある。

 カラー版19ページで、表紙をめくると「はじめに」との一文に「今は日韓の相互理解と友好のために、また我々に着せられた汚名をそそぐため、一連の報道は何が間違っていたのか、なぜそれは起きたのか、そして我々は何をなすべきかを冷静に検証することが重要だと考えます」とある。

 冊子には「読売新聞は真実を追求する公正な報道で信頼に応えます」と題するB4判の挨拶文が挟んであった。朝日読者をターゲットにした拡販キャンペーンのようだ。

 その数日後、今度は「ご愛読者のみなさまへ深くおわび申し上げます」と題する朝日新聞社の挨拶文が同紙の折り込みチラシと一緒に入れられていた。形式はB4判で読売のものとうり二つ。明らかに読売の切り崩しへの対策を思わせた。が、詫び状を近所のスーパーや不動産のチラシとごちゃ混ぜにする神経が知れない(果たして筆者の配達地域だけか)。

 詫びるなら販売店員が読者の家を一軒一軒、訪ねてしかるべきだ。木村伊量(ただかず)社長の会見では他メディアから「朝日は謝罪の仕方を知らない」と批判されたが、販売店もそうなのだろうか。

 朝日26日付に掲載された「朝日新聞紙面審議会 9月会合」で、奥正之委員(三井住友フィナンシャルグループ会長)が「世に言う問題発生時のクライシスマネジメントとダメージコントロールが機能しなかった」と指摘している。それが今も続いているとしか思えない。

◆第三者丸投げに批判

 と言うのも、木村社長は11日の会見で、原発事故をめぐる「吉田調書」虚報は同社が設けている報道と人権委員会(PRC)で検証し、慰安婦虚報についてはPRCとは別に社外の弁護士や歴史学者、ジャーナリストら有識者に依頼して第三者委員会を新たに立ち上げるとしたが、これが食わせ物だ。

 そもそも自主独立であるべき言論機関が自ら検証を放棄し、第三者機関に丸投げするのは自浄能力の欠如を天下に晒(さら)したのも同然だ。そんな厳しい批判が同業者からも出ている(例えば長谷川幸洋・東京新聞論説副主幹)。

 しかもPRCは委員会と言っても、委員は早稲田大学教授の長谷部恭男氏と弁護士の宮川光治氏(元最高裁判事)、それに今井義典・立命館大学客員教授(元NHK副会長)の3氏だけである。

 いずれも、どちらかと言えば朝日応援団的な人物で、長谷部氏は護憲派で知られ、宮川氏は君が代不起立訴訟や光市母子殺人事件の最高裁判決でリベラル色の強い判断を示して名を馳(は)せた。

 朝日は17日に同委員会を開いて検証を開始し、論点整理をして次回以降、本格的な審理に入るとしている(18日付)。だが、多忙(?)な3氏が自身で論点整理するわけではなかろう。事務方のシナリオどおりの“検証”でお茶を濁すのは目に見えている。

 もっと訳が分からないのは、慰安婦問題の第三者委員会だ。社長会見から2週間以上もたつのに、いまだ委員会を立ち上げたという話を聞かない(28日段階)。委員の引き受け手がいないのか、それとも人選をめぐって内紛でもやっているのか。これが一般企業なら、それこそメディアから袋叩きに遭っていよう。

◆誤報に処分反対記事

 そうかと思うと、朝日27日付社会面に奇怪な記事が載った。「吉田調書」をめぐる記事について中山武敏氏ら弁護士9人が朝日新聞社と報道と人権委員会に対して、「関係者の不当な処分はなされてはならない」などと申し入れたというのだ。他に弁護士191人が賛同したとしている。

 関係者を処分するもしないも、審理はこれからだ。なぜこんな圧力めいた申し入れをわざわざ記事にする必要があるのか。中山氏は名うての左翼弁護士だ。これに同調する記者が少なからず存在することをいみじくも記事は証明した。どう考えても朝日にはクライシスマネジメントもダメージコントロールも機能していない。機能しているのはイデオロギー優先体質と言うほかない。

(増 記代司)