若田さんISS船長就任に際し日本の有人宇宙の将来懸念する産経
◆日本人初に社説1紙
国際宇宙ステーション(ISS)に、昨年11月から長期滞在している若田光一宇宙飛行士が9日に、第39代のISS船長に就任した。ISS船長は、奥村直樹・宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事長が若田さん船長就任の談話で語ったように、宇宙飛行士全員の命とミッション全体を預かる重い責任と、適格な危機管理能力が求められる。
若田さんは今回が4回目の宇宙滞在。経験や実績が豊富で、特にロボットアームの操作は評価が高い。若田さんの船長就任について、唯一社説を掲載した産経(9日付主張)は、「日本の有人宇宙活動にとっては歴史的なステップである」と意義付けた。
ISS船長は、日本がISS計画に参加してから若田さんが日本人としては初めて。米国とロシア以外の飛行士では3人目である。
日本はISS計画に当初から関わり、自力での有人輸送技術こそ持たないものの、米スペースシャトルで宇宙飛行士を送り、ISS建設に協力。
また、宇宙実験棟「きぼう」を完成させ、H2Bロケットで打ち上げる無人物資補給船「こうのとり」は、スペースシャトル引退後は大型の実験設備などを運べる有力な手段になっている。
産経は、若田さんの船長就任を「日本の宇宙開発技術と飛行士の能力が、世界から信頼された証し」と評価した。同感である。
◆新計画で「縮小」嘆く
また、同紙は独自の宇宙基地構想で宇宙大国化を図る中国と比較し、「米国などとの国際協力で日本の存在感を高めることには大きな意義がある」と強調するが、これまた、その通りである。
そんな産経が、「残念」と漏らすのは、若田さんら歴代の飛行士とJAXAが築いてきた実績と信頼を、将来につなげる大きな構想が今の日本にはないこと、である。新しい宇宙基本計画(2013年から5年間)では、有人活動は「縮小」の対象で、ISS計画は「費用に見合うほどの成果が見えない」として予算削減の方向にあるからだ。
ところが、米国は先ごろ、ISSの運用を少なくとも4年間延長して、24年まで利用を継続することを決め、計画の参加国に協力を要請した。この米国の呼び掛けに、日本はどう対応すべきか。
産経は、有人活動の方針が定まらないままでは、「ISSの今後の活用に関して建設的議論はできない」として、政府に対し「早急に、宇宙開発の長期構想を打ち出すべきだ」と訴えた。産業に役立つ成果も大事だが、宇宙開発の意義はそれだけではない、将来を担う子供たちが宇宙に「夢」を抱ける国であるためにも、というわけである。
◆中国独走を読売警戒
米国の呼び掛けへの対応では、読売が14日付で社説を掲載した。「参加継続は大局的に判断を」との見出しで、今一つ、結論が明確でないが、コストだけでなく「安全保障など様々な面から幅広く」議論を進めれば、日本が延長に協力するのはやむを得ない、という判断のようである。
確かに、「きぼう」については、成果が上がっていないという批判や、巨額の費用(14年度のISS関連予算は約360億円で、年末に打ち上げ予定の小惑星探査機「はやぶさ2」の7年間の総開発費約290億円を単年度で上回る)がかかること、さらに運用が延びれば、他の科学探査機や衛星、次世代ロケットなどの開発予算が圧迫されるといった懸念がある。
しかし、同紙は、米国の延長決定の背景に、「中国が近年力を入れている宇宙技術の高度化に対抗する意図がうかがえる点は重要だ」と指摘する。中国は独自の宇宙ステーションを建設する計画を進めており、ISSが延長されずに20年で終了すれば、「宇宙で人が常時滞在できる施設を持つのは中国だけになる見通し」(同紙)だからだ。
もちろん、こうした日米同盟を重視する安全保障上のコストという側面ばかりではない。ISSはまさしく巨大な宇宙実験場であり、地上では得難い無重量空間である。10年以上の運用が続くことになれば、きぼうでの実験の成果をはじめ、きぼうを外国にも開放すれば国際貢献にもなる。また物資補給船の回収機能付加型(HTV-R)や有人を見越した発展型の研究などにも弾みがつく。
本紙を含め他紙にこうした論評がないのは残念である。
(床井明男)