「精子提供」受け“独り妊娠”というネット社会の暗部追った「クロ現」

◆見知らぬ男から入手

 ネット社会とは言え、いろんなサイトがあるものだ。ベビーシッター紹介サイトはその一つだが、それを介して男に預けた幼児が遺体で見つかるという事件が起きて、厚生労働省は預ける相手の身元確認をするなど、注意を呼びかけている 。

 このニュースに接して、わが子を見知らぬ男に預けることに抵抗感を覚えないのかと訝(いぶか)る半面、シングルマザーをはじめ、緊急の場合に子供を見てもらえる親族や知人が身近になく、仕方なくサイトを利用する母親が少なくないのも、ネットが映し出す“無縁社会”の現実なのかもしれない、と妙に納得してしまった 。

 ネットで検索すればベビーシッターどころか、どんな情報でも手に入る時代である。しかし、無料で精子の提供をもちかけるサイトまであるというのだから言葉を失ってしまう。ネット社会究極の「暗部」とも言うべきものだろう 。

 「精子提供サイト」の存在を知ったのは、NHKの「クローズアップ現代」(2月27日放送)がこの問題を扱ったからだ。サイトを介して精子を入手、それを自分で体内に入れて子供を出産する女性がいるのだという 。

 「ボランティア」と称し、自分の精子を提供する男にも呆れるばかり。いずれも生まれてくる子供の幸せを無視した身勝手な行為であり、嫌悪感さえ覚えた。

◆サイトに並ぶ提供者

 番組によると、精子の提供をもちかける個人サイトは40余り。正直、筆者はそんなサイトがあるとは知らなかったので、早速「精子提供」と入力して検索すると、「精子提供を無料で」「精子提供ボランティア」などのサイトが並んでいた 。

 その一つは「男性不妊で悩んでいるカップルの方、選択的シングルマザー希望の方、レズビアンカップルの方、GIDカップルの方等に、実費のみで精子を提供しています」とうたっている。GIDとは性同一性障害者のこと。プロフィールを見ると、「年齢は30代半ば」「東京大学大学院修士」とあり、これまでの実績も記していたが、いずれも本当かどうかは分からない 。

 番組が追跡取材した精子の受け渡しは次のようなものだった。地下鉄の出口で、男女が待ち合わせをし、喫茶店に入って1時間余り面談。そのあとしばらくして、男性が精子の入った容器を女性に手渡すという段取り。あとは、女性が針のついていない注射器を使って、その精子を自分の体内に入れるのだ 。

 精子の提供を受けるのは、不妊症に悩む夫婦だけでなく、独身女性もいるが、なぜ常軌を逸したとしか思えないことをやるのか。番組が紹介した女性たちの声は次のようなものだった 。

 「結婚を早くしたいという焦りはあったが、38歳を過ぎたら、選択的シングルマザーでいい」「結婚したいという気持ちよりも、ともかく子供を生みたい」  ある41歳の女性は、番組が取材した時、実際に妊娠し9週目を迎えていた。「仕事の都合などで婚期を逃してしまって。でも、子供はやっぱり欲しい」と思い、何度か精子提供を受けて、妊娠したのだという。

◆甘い姿勢あった番組

 一方、番組はこれまで20人に精子を提供し、5人から出産の報告があったという男性も取材。「日本の社会はだんだん結婚しにくくなっている。それでもやっぱり女性は子供を産みたいだろう。そこで自分で何か起こせないか、という意識があった」と、その動機を聞き出していた 。

 精子提供の現場を追跡した取材力は「さすがNHK」と思わせるものがあったが、気になったのは精子提供に対する甘い姿勢だ。取材した記者は「今の社会の課題が透けて見える」と、婚期を逃した女性に同情するような口ぶりだったが、当事者には生まれてくる子供への責任についてどう思っているのか、厳しく問いただすべきだったろう 。

 また、最後に識者を登場させて、HIV(エイズウイルス)や梅毒、クラミジアに感染する危険があるという衛生面と、生まれてくる子供への福祉という倫理面から問題があると語らせていたが、問題があるどころではない。いくら結婚しづらい時代でも、見ず知らずの男の精子で女性が子供を生むのはエゴイズムでしかなく、「絶対にやってはいけない」と断言すべきだったのだ。

(森田清策)