中国の軍拡を問題にしても批判は米国に向ける朝日のねじれた報道

◆疑問出る紙面審議会

 朝日の紙面審議会で、委員をつとめる奥正之氏(三井住友フィナンシャルグループ会長)が特定秘密保護法をめぐる朝日の報道姿勢に疑問を呈している(4日付)。

 奥氏によると、朝日は昨年10月までは安保関連情報の収集活動における秘密保護の必要性について触れた記事があり、秘密法の是非について客観的に書かれていた。ところが、国会で同法案の審議入りを伝えた11月8日朝刊1面に突然、「社会に不安 廃案にせよ」という論説主幹の署名記事が載った。

 奥氏は、この法案に疑問点もあるが、日本を取り巻く厳しい国際情勢を顧みれば拙速とは言えないとし、「機密情報の保護と安全保障の関係や、諸外国における表現の自由との関係に触れながら、建設的に修正案を提示する方向性もあったと思う」と、代案提示を求めている。

 確かに朝日紙面は11月から一変し、それ以降、まるで明日にでも戦争が始まるかのような反対キャンペーンを張った。中には「赤旗」顔負けの煽動(せんどう)記事もあった。一般紙として朝日を購読する読者は奥氏と同じように、「建設的に修正案を提示する方向性もあった」と思ったに違いない。

 だが、こうした疑問に当の大野博人・論説主幹は「国民の知る権利や取材の自由に抵触しないよう、徹底した議論が必要だと主張した」と話を逸(そ)らし、代案提示については答えずじまいだった。

◆「抑止」に学ばぬ朝日

 反対だけの反対なら誰にでもできる。反対ならどうすればよいのか、代案を提示してこその言論機関だが、朝日には通用しないらしい。「中国の国防費 危うい軍拡をやめよ」と題する6日付社説も代案が何とも怪しい。

 社説は「(中国の)この頑強な軍拡のねらいは一体、何なのか」「まるで前世紀初頭までのような強兵政策にひた走り、力による覇権を唱えるかのような姿は国際的な尊敬に値しない」などと一応は批判する。

 ところが、読者は最後にうっちゃりをくらわされることになる。中国を論じた後、米国が先に発表した軍事戦略を取り上げ、「(中国を意識し)海軍艦船の6割をアジア太平洋地域に配置する」とし、結論として「軍拡が軍拡を呼ぶ悪循環の末路は人類の戦争史が物語る。過ちを繰り返さないためには何が必要か。各国指導者は今こそ真剣に考えねばならない」と言うのだ。

 なんと、「危うい軍拡をやめよ」の矛先を米国にも向け、中国指導者にモノを言うべきところを「各国指導者」と相対化し、お茶を濁してしまった。中国の軍拡に対する代案(対応策)がまるっきり書かれていないのだ。

 朝日社説は中国の軍拡を列強諸国が競った「前世紀初頭」と比較するが、それが根本的な間違いで、比較すべきは1930年代のナチス・ドイツだろう。当時の英首相チェンバレンは朝日と同じような御託を並べ戦争を招き入れた。ジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授は「ヒトラーの計画的な侵略に対する抑止の失敗の産物」と断じている(『国際紛争 理論と歴史』有斐閣)。抑止力を顧みない朝日は一体、歴史から何を学んだのか。

◆世論誘導する見出し

 そのナイ教授のインタビュー記事が朝日16日付1面トップを飾った。「集団的自衛権 行方を追う」のロゴ入り記事で、見出しに大きく「ナショナリズムとの連動 懸念」とあり、肝心の行使問題はそれより小さく「憲法解釈見直しは『支持』」とある。これこそ朝日一流の世論誘導だ。

 インタビューの詳細が中面にあるが、主テーマである行使問題についてナイ教授は安倍政権の憲法解釈の見直しを明確に支持している。朝日はそれを主見出しに据えず、ことさらナショナリズムに焦点を当てている。おそらく記者が執拗(しつよう)に聞いたのだろう。

 が、ナイ教授は「米国内でも、日本で強いナショナリズムが台頭しているのではないかという懸念が出ている。個人的には日本の大部分の意見は穏当なもので、軍国主義的なものではないと思う」と、自身は「穏当」と見ている。「ナショナリズムのパッケージで包装するな」と注意を促しているが、解釈見直し自体がナショナリズムと連動しているとは見ていない。

 それでも「ナショナリズム」の見出しを躍らせる朝日は、心がねじけている。

(増 記代司)