逆にオミクロン株は“救世主”になるのでは、との期待を抱かせる新潮
感染力高いが弱毒性
新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の出現で、ウィズコロナ生活を始めようとしていた人間社会に強い緊張が走った。規制が緩和され、久しぶりにクリスマスパーティーや忘年会を開き、年末年始は故郷に帰ろうとしていた人々が二の足を踏む。
「感染力が強く」「デルタ株が置き換えられようとしている」というオミクロン株は日本に第6波をもたらすのか。まだその正体がはっきりしていないが、専門家はむしろオミクロン株は「コロナパンデミックを、インフルエンザに近いものに変容させる可能性がある」との見通しを示している。
特集したのは週刊新潮(12月16日号)だ。同誌はこれまで分かっているオミクロン株の特徴を専門家に聞いた。「まだ判断できない」と口をそろえて言うが、感染力が高く、蔓延する可能性もある一方で、重症化はせず、毒性は強くなさそうだ、という見解で一致している。ただ、世界保健機関(WHO)は「危険性の判断は早すぎる」と警鐘を鳴らし、日本政府の「外国人入国禁止」を「疫学的に理解しがたい」と批判した。
これはおかしいだろう。WHOが「懸念すべき変異株(VOC)」に指定したから、日本を含む各国は警戒を強めたわけで、岸田文雄首相は、「状況が分からないのに岸田は慎重過ぎるという批判については、私が全て負う覚悟でやってまいります」として強い規制や水際対策を打ち出した。見逃し三振よりも空振りの方がいい。後になって「なぜあの時やらなかった」との批判を受けるよりましだろう。
重症度高い株を駆逐
さて、同誌はこの記事に5㌻を割いている。ワクチンは効くのか、3回目は必要なのか、病床の準備はできているのか、治療薬は、などの懸案をまとめているが、肝心なのは最後の1㌻だ。そこで「大山鳴動している割には(略)オミクロン株の感染者に、死者も重症者もいないという」と指摘する。これが重要だ。
アメリカの金融持ち株会社JPモルガン・チェースが注目すべき見解を出し、同誌はそれを紹介した。「重症度が低く感染力の強い株が重症度の高い株を急速に駆逐するという、過去のパターンに適合し、新型コロナを季節性インフルエンザに近いものに変容させる可能性がある」というものだ。「100年前に猛威をふるったスペイン風邪も、こうして終息した」と。
だから、浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫医師は、「もしかしたらオミクロン株は“救世主”になってくれるのではないか、という期待をもっています」と言う。どういうことかと言えば、「感染力は高くて致死性は低いのが、生き残れる賢いウイルス」で、オミクロン株がそれなら、「感染しても鼻水など軽い症状のみ」で「ある程度無害化して定着」するからだ。
同誌は「予断は許さない」としつつも、「終息を見通す目もまた、必要ではないだろうか」と記事を結ぶ。むやみに恐れず、希望的視点を持つのは新型コロナに対する同誌の一貫した姿勢でもある。
文春も希望的見通し
週刊文春(12月16日号)も「コロナとの戦いは“終わりの始まり”に差し掛かっているともいえる」と珍しく希望的な見通しを出した。ウイルスが「マイナーチェンジを繰り返し、次第に風邪のウイルスのように変化するのが原則」(インペリアル・カレッジ・ロンドンの小野昌弘准教授)だからだ。
公立陶生病院感染症内科主任部長の武藤義和医師は、「仮にこの先、第六波を経験し、今の医療体制で対処可能と確信できれば、トンネルの出口は見え始めたといえるでしょう」と同誌に述べている。
もちろん、だからといって、安心してはならないのは言うまでもない。ディスタンス、マスク、手洗いなどを守って終息を待つ必要がある。
今回は両誌とも同じような見方になった。専門家の見解が一致しているということだ。
オミクロン株が“救世主”となることを祈る。
(岩崎 哲)