脱炭素めぐる「地獄」描くダイヤモンド、新技術紹介するエコノミスト

温暖化による環境の変化に歯止めがかからない。

対応開示が経営圧迫
 国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が、英グラスゴーで開催された。ここでは「産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑える努力をする」ことなどで合意を得た。ただ、石炭火力については当初、「廃止」を打ち上げていたもののインドなど石炭依存度の高い国の反対で紛糾。結局、「削減に向けて努力」という文言で終わった。

 もっとも温暖化を阻止するため二酸化炭素(CO2)排出を規制し、脱炭素社会を構築していくという方向性に各国の異論はなく、そのスピードが今後、加速していくのは間違いない。その中で日本は脱炭素社会に向け、世界の牽引(けんいん)役を果たしていくことができるのであろうか。

 そんな脱炭素社会をテーマとして経済2誌が取り上げている。一つは週刊ダイヤモンド(11月6日号)の「脱炭素地獄」。もう一つが週刊エコノミスト(11月9日号)の「これから来る!脱炭素・DX 技術革命」である。見出しを見る限り両者の論調は真逆の感がある。

 ダイヤモンドはサブ見出しを「脱炭素シフトで経営大打撃!」とし、脱炭素という新しい大潮流の中で企業、特に製造業が翻弄(ほんろう)される過程を描こうとした。対してエコノミストは「脱炭素の経済効果は2050年まで290兆円」とし、日本の先端技術をもってすれば商機は多いと説くのである。

 そこでダイヤモンドが言うところの「脱炭素地獄」の「地獄」とは何かといえば、今後、企業にとって脱炭素リスク対応の開示が求められることになり、それがあらゆる面で経営を圧迫するというのである。その一つとして「来年4月には、東京証券取引所の“最上位”となるプライム市場の上場資格として、TCFD(各国の金融当局が参加する『気候関連財務情報開示タスクフォース』)に準拠した情報開示が義務付けられる」ことを挙げる。

 一事が万事でこれから先、国際的な取引を行う上で相手先企業から脱炭素への取り組みが不十分と判断された場合、取引停止の口実を与えることになりかねないというのである。その意味ではビジネスモデルを変えるほどの脱炭素の取り組みが不可欠。とりわけ、鉄鋼や自動車、運輸など大量にCO2を排出する企業は脱炭素対応が死活問題になりかねないと強調する。

日の丸半導体復活へ

 そしてもう一つ同誌が強調するのは、「日の丸半導体」の復活である。半導体は“産業のコメ”といわれる。かつて日本は世界で5割を超えるシェア握っていたが、今ではその座を韓国、台湾に奪われている状況だ。ただ、半導体はこれからの脱炭素社会実現にとって不可欠な技術。「米欧中に対抗して日本政府の半導体支援も急激に膨らみつつあるが、日の丸半導体復活に向けて最も大事なのは、民間主導で革新的な半導体製品が登場することにほかならない」と説く。

 中国、欧州が政府の支援を背景に主導権を握ろうとしている今日、わが国においても官民主導で進めていくのは至極当然のことと言える。

次世代型電池を開発

 一方、エコノミストは脱炭素社会に向けて個別の技術を紹介しているが、その中でユニークなのが、「矢部式マグネシウム電池」というもの。東京工業大学名誉教授の矢部孝氏が開発したマグネシウムを利用して作った次世代型電池で、弁当箱ほどの大きさのものだが、従来のマグネシウム電池よりも10~40倍の出力を持つ。照明用なら5時間、キャンプ用冷蔵庫なら8時間は稼働するという代物だ。

 さらに矢部氏は、海水中に無尽蔵にあるマグネシウムを取り出し資源として活用すれば、発電から燃料電池車など「マグネシウム循環社会」が可能だと力説する。矢部式マグネシウム電池特許については、幾つか取得済みだということ。

 マグネシウム循環社会については、今のところ「大風呂敷」という感は否めないが、それでも夢のない話ではない。脱炭素社会という社会構造の変化を余儀なくされる時代にあって、夢のある話を聞くのも面白いものである。

(湯朝 肇)