中国共産党100周年式典での“共産主義復活宣言”を見過ごす各紙


◆朝日の空想的改革論

 7月1日、中国共産党100周年式典が天安門広場で開催された。

 天安門の壇上に立った習近平総書記は、「中国共産党はマルクス主義の基本原理を堅持し、21世紀のマルクス主義の発展を継続していく」と“共産主義復活宣言”を出した。

 中国は鄧小平以後、共産主義を棚上げした上で資本主義を導入。計画経済から市場経済へと大きく舵(かじ)を切ることで、ダイナミックな経済発展を遂げることに成功した。

 それを共産党政権はこれまで「中国式社会主義」といった表現で、保守派からの反発をかわしてきた経緯がある。

 今回の習総書記の演説は、これまでの弁明的「中国式社会主義」から確信的「共産主義」への回帰をうたい上げた格好だ。その様は、顔に手をかざした瞬間、面が変わる中国伝統芸能の変面にも似て、従来の偽装自由市場の仮面を脱ぎ棄てた瞬間のようにも思えた。

 2日付各紙は、その歴史の節目を捉え切れていない。

 朝日社説は「現在の豊かさを築いた『改革開放』の柔軟な発想を、経済から政治に広げる必要がある」といったピンボケ主張を展開した。

 習総書記が来年の共産党大会で狙っているのは3期続投であり、さらには党主席ポストを復活させ、毛沢東同様の主席終身制への布石としたい意向だ。今回の共産党100周年式典も、そのためのステップボードにすぎない。強権統治が大手を振るうようになってきた中南海の状況は、民主化に向けた政治改革のカの字もないのが実情であり、朝日のオピニオンは「空想的社会主義」ならぬ「空想的政治改革論」だ。

◆着眼点は的確な日経

 唯一、日経が同日社説で「気になるのはマルクス主義、社会主義への回帰を示唆する動きだ」と指摘した。

 広がるばかりの貧富の格差に対応して共産党一党支配のグリップを強めるには、「改革・開放後、希薄になった社会主義的イデオロギーが新しい形で前面に出てくる可能性がある」と書き、「習近平時代に入って目立つ国有企業重視と民間企業への圧力はその兆しだ」と同社説では言及した。

 日経はいいところを見ているものの、ただ最後の詰めは甘い。

 同社説は「中国共産党という存在が今ほど世界中で意識された時代はない。習近平政権はその影響力の大きさを自覚しつつ、世界とどう折り合いをつけていくのか熟慮する必要がある」と締めている。

 経済力も軍事力も劣った中国は、これまで鄧小平の韜光養晦(とうこうようかい)路線で爪を隠して西側世界とぶつからないように気を付け、ひたすら経済と軍事力増強に邁進(まいしん)してきた。

 その中国が近年、覇権への赤い野心をむき出しにするようになってきた。米中新冷戦の構図も、このシナリオの中にある。

 評論家の石平氏は本紙(2日付)で「経済的なデカップリングを完璧にやり切り、軍事的、地政学的に中国を封じ込め、外交的に孤立化させることだ。そうすることで中国内部の変化を促せる」と明快に述べている。

 西側から政経共に切り離されれば、中国は窮地に陥る。経済も駄目になる。そうなると中国共産党内部でも不平不満が出て政治的な変化を促すことにつながるというのだ。

 無論、これには西側陣営自身にも損失と痛みを伴うが現在、問われているのは「肉を切らせて骨を断つ覚悟だ」(石平氏)という。

◆レーニンの罠に嵌る

 その意味でも毎日新聞の社説(11日付)は、もどかしい限りだ。

 同社説は「中国は日本にとって最大の貿易相手国だ。緊張が経済に波及し、中国から報復的な制裁を仕掛けられれば国益を損ないかねない」とした上で「米中の力関係は流動的だ。地域の安定を構築し、繁栄を維持するには中国との協力は不可欠だ。米国一辺倒ではなく、外交の幅を広げる方策を考えるべきだ」と結論付けている。

 共産主義の始祖レーニンは「資本家は自分の首を絞めるロープまで売る」と西側世界をあざ笑った。毎日の社説はそのレーニンの罠(わな)に嵌(はま)るものでしかなく、チェンバレンの融和主義がナチスの増長を招いたのと同じ轍(てつ)を踏むリスクが高い。

(池永達夫)