米中対立が激化する中、経済安保を踏まえた戦略を訴える東洋経済
◆日本企業は板挟みに
米中2国間の軋轢(あつれき)は収まる気配がない。トランプ政権下にあった2019年5月、米国政府はファーウェイ(華為技術)やZTE(中興通訊)などの中国IT企業に対し、事実上の禁輸措置を実施、中国への対立姿勢をあらわにした。そうしたスタンスはバイデン政権下になっても変わっていない。問題は今後、米中対立が続けば日本の立ち位置、さらには日本企業の経営戦略を明確にしなければならない時が来るということだ。
そんな中、東洋経済(6月26日号)は米中対立激化で生じるリスクに備えて企業の取り組み方を特集した。テーマは「全解明~経済安保」。サブ見出しには「日本企業は米中の板挟み」「企業激震の新リスク」「米中制裁合戦の脅威」といった文言が並ぶ。
ところで、経済安全保障とは他国の軍事力からの安全保障だけではなく、経済的側面からの国家の安全を保障すること。強大な軍備拡張を進め、政府の補助金をもって経済投資や科学分野での開発研究を進め、いわゆる軍民融合で覇権を狙い、一方で新型コロナ禍でのワクチンを使った外交戦略を展開しながら周辺国への影響力を及ぼす中国。今後米中対立が激化すれば、政府も企業も安全保障策を講じておかなければならないということである。
◆情報漏れ防ぐ対策を
同誌は経済安保について最初に、次のように綴(つづ)る。「国家の外交・防衛政策を民間企業が否応なしに意識しなければならない時代がやってきた。人権問題を含め、日本企業は経済安全保障を踏まえて戦略をどのように練るのか」というのである。ただ、この文章から言えば、企業はこれまで国家の動向を意識せずに動いてきたのか、ということになる。
そもそも企業は、たとえグローバル化の時代とはいえ、一国の上に存在している。企業は利益を優先するにしても国益を損なう行為は決して許されるべきではないばかりか、人権侵害を容認したり、人権を見過ごすことがあってはならないのは自明の理であって、利益が出れば何をしても構わないというわけではない。
一方、企業の対中国進出について甘利明衆議院議員が次の点を指摘している。自民党の新国際秩序創造戦略本部の座長でもある甘利氏は、「日本企業が中国市場に進出するならば、基本的にすべて(情報や技術)が盗まれるという前提でいないと。丸裸にされるということだ。それを防ぐには対策をしてくださいと企業に伝えたい」と語る。中国に情報を抜かれる前にきちんと対応せよというのだが、これもいささか「何を今さら」という感がしないわけではない。中国がスパイをはじめ、あらゆる手段を使って西側の国や企業の情報を集めていることは以前から指摘されている。
◆土地取得規制は当然
ところで今回の特集の中で同誌は自民党の出した「『経済安保戦略』の策定に向けて」に疑問を呈しているが、その論理に納得がいかない。土地利用規制法を例に挙げ、外国人・外国法人の土地取得において一定の規制を掛けることについて同誌は、「海外で不動産を取得する日本人も多い中、国内で外国人(中国人)による不動産取得に制限をかけるのは政府内にも異論があった」と疑問の声を上げる。確かに、日本人の海外での土地取得は頻繁に行われている。しかし、日本人の中国での土地取得は不可能なのである。中国では土地は国家のものであって、土地の使用権は認められているものの、取得権を認めていない。これは明らかに相互主義に反している。ましてや自衛隊や米軍基地などの周囲を「注視区域」にして規制を掛けるのは国益という観点から当然過ぎるといっていい。
ここにきて経済安保を叫ぶにはいささか“遅過ぎる”という感がしないわけではないが、米中の狭間の中で国も企業も自らの立ち位置を明らかにすべき時がきているのは確かなようだ。
(湯朝 肇)