大勢が囲んでいじめの構図
被害者の体験と目撃現場(20)
舞さんが信仰を失ってからも、玄関ドアの施錠は解かれず、「リハビリ」と呼ばれる生活が続いた。“信仰で異常になった頭を正常に戻す”という名目で、別の被害者に加えられる脱会強要の場に、元信者として駆り出されることもあった。
1998(平成10)年5月のある日のこと。舞さんは部屋に呼びに来た元信者と2人で、同じ荻窪フラワーホームの804号室に出向いた。ここに後藤徹氏が監禁されており、同マンションに移ってから2カ月ほど経っていた。舞さんも、後藤氏のことはスタッフから聞かされていた。
部屋の前に着くと、元信者は心得たもので、玄関ドアをごく小さな音でトントンと叩いた。すると、中からカシャカシャカシャカシャと開錠する音が聞こえ、ドアが開くと元信者はスッと入っていった。舞さんも後に続き、その後、すぐさま施錠された。
舞さんの室内とまったく同じ間取りで、監禁部屋が奥の6畳間であることも同じだった。3、4人の元信者を両脇に従えた宮村氏と後藤氏が、足の短い丸テーブルを挟んで部屋のほぼ中央で対していた。後藤氏のすっかりうなだれた姿が痛々しかった。
下着や小物を入れる小さな三段のたんすが後藤氏の後ろに置かれていて、舞さんには、後藤氏が部屋の真ん中に連れ出されたように映った。「部屋の奥まったところに隠れず、もっと前に出て話を聞け」と、心理的にも退路を断つ演出のように見えた。後藤氏はトレーナーに下はジャージ、髪がぼさぼさで、しばらくはさみもクシも入っていない様子だった。
舞さんに気付いた宮村氏は話の調子を変え「この子はお前の日大の後輩だ、お前は先輩になるんだ。彼女は6カ月間もしゃべらなかったぞ。だけど、きちんと考えて結果を出して、今こうして普通にいる。お前ももっと考えろ」というようなことを言った。さんざん抵抗したけれど、今はもうおれたちの方に来たぞ、と言わんばかりだった。
舞さんは、宮村氏から何か話すよう促されたと感じたが、とても言葉が出なかった。後藤氏が気の毒で仕方なかった。そのうえ以前訪れた脱会強要の場の緊張感が蘇って、気分が悪くなった。
その後、宮村氏は「お前の頭で考えろ」「思考停止してるぞ」「お前は馬鹿か」などと後藤氏に毒づき、罵詈雑言を浴びせていた。引き連れてきたスタッフの元信者は、ニタニタしながらうなずき、「リハビリ」を始めて間もないと思われる人は緊張して固まっていた。舞さんには「まさに、一人の人間を大勢が囲んでいじめるという構図、あるいは動物園の見世物ショーのようだった」と不快な出来事を振り返る。
舞さんがこの部屋に入って20~30分もしたころだ。宮村氏が「じゃあ、また来るぞ」という台詞を吐くと、じっと耳を傾けていた家族が、タタッと玄関に走った。宮村氏が立ってすたすたと出て行くと、遅れてはならじとばかりに元信者たちがあわててお供する光景は、まるで殿様と家来の構図でもあった。
舞さんがやってくる前から続いていた、その日の脱会説得が終わった。舞さんも一緒に玄関を出たあと、後ろで家族が、カシャカシャカシャカシャと施錠する音が外に聞こえた。
(「宗教の自由」取材班)