「公正な審理」の願いかなう
“拉致監禁”の連鎖
後藤徹さん勝訴から(上)
東京地裁709号法廷。1月28日、時計の針は午後3時5分前をさしていた。裁判官席に向かい左前の原告席は、後藤徹さん(50)と代理人弁護士。被告席には「職業的脱会屋」とか「改宗請負人」と呼ばれる宮村峻氏、新津福音キリスト教会の松永堡智牧師、後藤さんの兄ら家族、代理人弁護士が2列の長机を前に座った。
傍聴席には、拉致監禁問題を追及している宗教ジャーナリストの室生忠氏やルポライターの米本和広氏、被告宮村氏の長年の友人という参院議員の有田芳生(よしふ)氏ら。拉致監禁と後藤さんの被害に心を痛め、オーストラリアからブログでこの問題を追及発信している人権活動家yoshiさんら、原告・被告双方の支援者も静かに開廷を待った。
裁判長と2人の裁判官が入廷したのは開廷2分前で、それから開廷まで法廷内には沈黙と微妙な緊張感が漂った。
12年5カ月にわたって拉致監禁され、信仰を棄てるよう強要されたとして「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」代表の後藤さんが家族や宮村氏らを相手に約2億円の損害賠償を求め訴えた民事訴訟。2011(平成23)年1月の提訴から3年近くが経過したこの日、東京地裁が司法判断を下した――。
本紙の長期連載「拉致監禁の連鎖」パートⅠ(10年2月4日から50回)で後藤さんの被害の実態を綴(つづ)ったように、1995(平成7)年9月の拉致監禁時に31歳だった後藤さんが「心身の不当な拘束」を解かれたのは08(平成20)年。すでに44歳になっていた。
世界基督教統一神霊協会によると、これまでに約4300人の信徒が拉致監禁の被害に遭っている。
この日、判決を前に後藤さんは「どんな思想・信条を持っていても、最低限、閉じ込められないで普通の生活ができる、当たり前の国に何としてもしなくてはならないという使命感で闘ってきた」と淡々と語った。「被告たちが、拉致監禁をしていたという確かな証拠を数多く提出することができた。それらの証拠を根拠に、裁判所が公正な審理をしていただければ十分に勝訴できる」とも自信をのぞかせた。
午後3時。相澤哲裁判長の口が開いた。「主文。1、被告後藤隆、被告後藤洋子及び被告青栁雅子は、原告に対し、連帯して483万9110円及びこれに対する……」。
早口で述べる判決に耳を傾けた被告席の人たちは、一様に厳しい表情のまま固まった。冒頭で「請求を棄却する」との文言がなかったことで、原告側勝訴がはっきりした瞬間だった。
(「宗教の自由」取材班)