12年余の監禁訴訟で後藤徹氏勝訴 不当拘束、棄教強要を認定 東京地裁


宮村氏や兄らに賠償命令

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支援者らに勝訴の報告をする後藤徹氏= 28日、東京・霞が関の東京地裁前

 新潟市や東京・荻窪などに約12年5カ月にわたって拉致監禁され、信仰する宗教団体からの脱会を強要されたとして、世界基督教統一神霊協会の信徒である後藤徹氏が、宮村峻氏や新津福音キリスト教会の松永堡智牧師、後藤氏の兄や妹らに約2億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日午後、東京地裁であった。相澤哲裁判長は後藤氏の家族らに対して483万9110円の支払いを命令。このうち96万7822円は、宮村氏と連帯して支払うよう命じた。松永氏と日本同盟基督教団に対する請求は棄却した。

 東京地裁は「(兄らは)玄関のドアの内側のドアチェーンの部分に南京錠で施錠をしており、当該南京錠を解錠しなければ上記ドアを開けることができない状態にしていたほか、ベランダに面した部屋の窓についても、鍵の付いた錠を設置し、開閉ができない状態にしていた」と認定。「各滞在場所における逃走防止措置の実施、外出及び外部との連絡の制限等に重点が置かれたものであって、その全体を通じ、原告にとって、その意に反する強制的な要素を含むものであったことは明らか」と強調した。

 また、宮村氏については「信者の家族らに対し、脱会説得の実践的・実効的な方法を指導していた」上に、「原告が荻窪フラワーホームにおいて不当に心身を拘束されていることを認識しつつ、平成10年1月頃から同年9月頃まで、頻繁に元信者らを連れて原告の元を訪れ、脱会を強要した」として、同期間は家族らの不法行為に加担したと認めた。

 相澤裁判長は「(兄らの)不法行為により、10年以上もの長期間にわたり、その明示の意思に反してその行動の自由が大幅に制約され、外部との接触が許されない環境下に置かれ、その心身を不当に拘束され、棄教を強要されたものであり、そのことにより原告が被った精神的苦痛は極めて大きい」と断じた。

 後藤氏は判決後、東京地裁前に集まった支援者らを前に「勝訴しました。(支援に)心から感謝いたします」と報告した。

「つらい闘い、支援者に感謝」

拉致監禁民事訴訟 勝訴の後藤徹さん会見

 「拉致監禁を撲滅する一助になってほしい、と心から念願しています」――。強制棄教を狙った拉致監禁被害に対する損害賠償を求めた民事訴訟。28日午後の勝訴判決を受け行われた司法記者クラブ(東京・霞が関)の記者会見で、原告の後藤徹さんは力を込めて語った。

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勝訴の判決を受け記者会見する後藤徹さん(中央)=28日、東京・霞が関の司法記者クラブ

 人生、いよいよこれから花開くという31歳の時に突然監禁され、44歳まで12年5カ月間にわたり監禁で自由を奪われ、平成20年2月に解放された後藤さん。同23年1月に民事訴訟を提起したが、「裁判中は、監禁当時のことを思い出さなければならず、非常につらい厳しい闘いになりましたが、(脱会、改宗屋の)宮村峻氏の責任が認められたという一点でよかった」と、この3年間を振り返った。

 「多くの同志が今回の結果に涙を流して喜んでおり、今もたくさんのメールが入っています」と支援者に対する感謝の一言も。

 その上で「今年、正月に帰省した信徒のうちにもマンションに監禁され棄教の説得をされている人たちがいる」ことを心配。「今回の勝訴を契機に、自由と人権が保障されている日本において、最低限『拉致監禁される』と日々おびえなくても、信仰を持つことができる日本になってほしいと思う」と念願した。

 また後藤さんの代理人である福本修也弁護士は「宮村氏の責任を裁判所が認めたことは、非常に大きな一歩。他方、松永堡智牧師について責任を認めなかったことは大変残念であり、不当ではないかと考えている。現在、控訴を検討中です」と語った。

 鴨野守・世界基督教統一神霊協会広報局長は「これまで4300件の拉致監禁の中には監禁中に自殺したり、レイプされた女性もいる。また6階のマンションから逃げようとして(落下して)記憶喪失になった人もいるが、そういう人たちの長きにわたった無念の一端を晴らした判決。ただ、まだ我々の主張が十分認められていないことは残念だ」とコメントした。

被告側コメント

 判決後、被告とその代理人弁護士は、それぞれ次のようにコメントした。

 宮村峻氏 (控訴するかどうかに)まだ今のことだもの。弁護士と相談する。

 山口広弁護士(宮村氏の代理人) ノーコメント。

 荻上守生弁護士(後藤さんの兄ら家族3人の代理人) (控訴するのかの質問に)私が決めることではない。

 東麗子弁護士(松永堡智牧師の代理人) 今から判決をもらいに行くから(ノーコメント)。

「勝訴が拉致監禁一掃の一助になれば」

報告会で後藤徹さん

 12年5カ月にわたる拉致監禁の被害者である後藤徹さんは28日午後、監禁などの実行で“黒幕”とされる宮村峻氏や家族らに賠償責任を認めた勝訴判決のあと、東京地裁前で「拉致監禁をなくす会」のメンバーら支援者約100人の前で判決報告を行った。

 拍手で迎えられた後藤さんは晴れやかな表情で、やや顔を紅潮させ「私の兄弟らと宮村氏に対して、責任を裁判所が認め勝訴しました。ありがとうございました」とあいさつ。また判決が宮村氏の責任を認め賠償を命じたことについて「拉致監禁は今も続いています。勝訴判決が一助となって、日本から拉致監禁が一掃されることを心から願っています」とその意義を強調した。

識者の判決コメント

 著書「我らの不快な隣人」で拉致監禁の深刻な被害者の実態を伝えたジャーナリスト・米本和広氏の話 今日は(拉致監禁の被害者で、その根絶を訴えながら亡くなった)宿谷麻子さんの墓参りをしてきた。拉致監禁で諸悪の根源である宮村峻氏の責任が問われたのは画期的。今年に入って拉致監禁は2件ある。勝訴は拉致を根絶するためにも決定的な判決だった。

 拉致監禁問題を追及してきた宗教ジャーナリスト・室生忠氏の話 拉致監禁をする側も、これでやり辛くなるが、いろいろ手を変えてくるので注意を続ける必要がある。宮村氏の弁護士である山口広氏は、盟友関係にあり自らが弁護した人がこれだけ負けたのは大きなショックだったと思う。