問題はまだ終わらない
“拉致監禁”の連鎖
後藤徹さん勝訴から(下)
原告後藤徹さんの実兄らにも断が下り、兄や兄嫁、妹は原告に対し計483万円余の賠償支払いが命じられた。
「(兄らは)玄関のドアの内側のドアチェーンの部分に南京錠で施錠をしており、当該南京錠を解錠しなければ上記ドアを開けることができない状態にしていたほか、ベランダに面した部屋の窓についても、鍵の付いた錠を設置し、開閉ができない状態にしていた」として家族らは「原告に対し、棄教をしない限り、その置かれた状態から解放されないことをその態度をもって示した」のである。
ただ、判決で不法行為は「平成9年12月に荻窪フラワーホームに移動した後の偽装脱会後のものに限られる」と、その期間が限定された。平成7年9月11日に両親宅で拉致された原告に対し、新潟市の「パレスマンション多門」で行った松永堡智牧師の行為と、同牧師を指導する立場のゼ・エバンゼリカル・アライアンス・ミッション(日本同盟基督教団)に対する責任を問う賠償請求は棄却された。
判決の主文の言い渡しはわずか2分余りで終わった。法廷内で原告の支援者らの控えめな拍手が起こるのを尻目に、廊下に出てきた被告人やその代理人弁護士たちは硬い表情だった。被告の宮村峻氏は「(控訴するかどうかの問いに)まだ今のことだもの。弁護士と相談する」。宮村氏の代理人である山口広弁護士はやや顔を紅潮させ「ノーコメント」と一言、言ったきり唇を結んだ。
また後藤さんの兄ら家族3人の代理人の荻上守生弁護士は、控訴するのかどうかの質問に「私が決めることではない」と言い残し、さっと隣の控室に向かった。賠償請求が棄却された松永牧師の代理人の東麗子弁護士まで、無表情で「今から判決をもらいに行くから(ノーコメント)」とエレベーターに消えた。
一連の強制棄教問題では、この40年間に4300件が報告されているが、これまで民事訴訟で違法性を認めた判決が出たのは2件だけ。刑事事件として告訴しても、起訴はおろか強制捜査すらされず、民事訴訟を起こしても「家庭内問題」として片付けられてきた苦しい期間が長く続いた。
一方、強制棄教の活動の背後では、営利のからむ動きと常にリンクしていた。脱会屋や牧師が強制棄教の手助けをし、その脱会者が所属した宗教団体を相手に訴訟を起こし、山口広、紀藤正樹の両氏ら宮村氏サイドの弁護士がその裁判を手掛ける。そして脱会者のもつ信徒リストから、次の「説得者」の家族らと密かに連絡を取り合う……。
そのシステムを動かしてきたのが、いわゆる脱会屋の宮村氏。牧師、ジャーナリスト、弁護士らが、一脱会屋が描いた構図の中で、家族を前面に立て動いてきた。有田芳生(よしふ)氏などは、議員になっても宮村氏の応援を続けてきた。
そこで、脱会屋や牧師に不法行為を認める賠償判決が下ると、このシステムがきしみを起こしてしまう。賠償責任が脱会屋にも問われる判決を何よりも恐れたのは宮村氏だけではない。宮村氏の代理人である山口広弁護士もであろう。
この日、40余席の傍聴席に対し、傍聴券を求めて170人余りが東京地裁前に並んだ。宗教と自由、人権問題への関心の高さが示された裁判となったが、今年に入ってからも、2人が拉致監禁されているという。問題はまだ終わらない。
「宗教の自由」取材班=編集委員・堀本和博、同・片上晴彦、同・森田清策、社会部次長・岩城喜之