控訴審判決文が「監禁」を語る


“拉致監禁”の連鎖 パート9、10を終えて(上)

300 世界基督教統一神霊協会を脱会した元信者らが、同協会を相手取って起こした損害賠償請求訴訟、いわゆる「青春を返せ」訴訟の審理は、札幌地裁で1987(昭和62)年3月から2001(平成13)年6月まで実に14年3カ月間続いた。この間、3回にわたって原告が追加され、最終的には21人となった。すべてが女性である。

 本連載「“拉致監禁”の連鎖」パートⅨ(今年2月4日~18日掲載)では、その証言内容について詳細に分析した。

 その結果、原告全体の75%を超える人が、「説得」される際に物理的な拘束があったことを認め、全体の86%が意に反して何らかの拘束状態があったことが分かった。

 法廷証言だけでない。陳述書でも「監禁だと悟ったので恐怖を感じ、パニック状態になった」「恐ろしい圧迫感と監禁されたことに対する怒りで気が狂いそうだった」などは、原告側自体から出た拉致監禁の状態を示す具体的な表現である。

 原告の証言では、その拉致監禁の幇助者というべき人たちの実名が幾つも出、その活動内容についても、極めて具体的である。強制棄教の一連の過程に第三者の関与、介入があったのだ。

 証言では「マインド・コントロール研究所」所長のパスカル・ズィヴィ氏が16回、元信者の田口民也氏が2回、脱会屋の戸田実津男氏が1回、牧師6人がそれぞれ1回ずつ登場する。

 「説得」に際して、物理的拘束があったことは、すでに法廷で認定されている。協会が控訴した札幌高裁の控訴審判決では「被控訴人らはいずれも控訴人を脱会(棄教)した者であり、脱会に至るまでの過程において親族らによる身体の自由の拘束等を受けた者も多く、このような拘束等は、当該被控訴人らとの関係においてそれ自体が違法となる可能性がある」と断じている。

 ところが、判決文では、これらは被控訴人とその親族との間で解決されるべき問題であり、こうした事実は(青春を返せ裁判の)判決には影響を与えないと述べている。

 既に明らかにしてきたように協会を訴えた元信者らの大部分は、協会を脱会する際に家族らに拘束され、「脱会カウンセラー」や「脱会屋」ら第三者の介入によって信仰を破棄した人たちだ。

 つまり、物理的な拘束下で信仰を棄てた、作られた被害者たちがほとんどを占める原告団だった。元信者を原告に立てたこれらの訴訟自体、強制棄教の実行戦略に基づくものだった。

 だから、拉致監禁の事実を見据えた、裁判官の法と正義に立脚した公正な判断こそが必要だったのである。

 この裁判では、一審判決で原告の元信者らが勝訴し、控訴審でも協会の控訴が棄却された。最高裁で上告が棄却されたことで元信者らの勝訴が確定したが、認められた損害賠償額は、請求額の約3分の1だった。

 同様の訴訟では、原告側が一審敗訴のケースもある。1998(平成10)年の名古屋地裁判決(原告が控訴、高裁で和解)、99(平成11)年の岡山地裁判決(原告のうち1人は控訴せず確定、他の1人は控訴し高裁で勝訴、被告が上告したが棄却)、2001(平成13)年の神戸地裁判決(原告控訴の高裁で勝訴、被告の上告は棄却)である。

 強制棄教を目的とする信者に対する拉致監禁事件では、家族を巻き込んでそれを行う脱会屋らは、事件の事実自体を全面否定する。にもかかわらず、前述のように厳然とした事実が浮き彫りになってくるのである。

(「宗教の自由」取材班)