約20分間の現場見たまま
“拉致監禁”の連鎖(215)パート10
被害者の体験と目撃現場(1)
これまで拉致監禁され改宗・棄教を強要された世界基督教統一神霊協会の被害者は全国で4300人に上る。その一人、山田舞(仮名)さんは二度にわたり、思い出すのも嫌な棄教強要を体験し、一度は脱会した。だが、その後、再び信仰を取り戻して、現在、拉致監禁の根絶を訴えて国内外で活動している。舞さんは計3年1カ月の拘束期間中、拉致監禁されている他の信者の現場に、指図する“黒幕”らと脱会を迫る側の一員として行き、その実態を目撃するという貴重な体験を持つ。リポートは、その証言と舞さん自身の監禁体験である。 (「宗教の自由」取材班) 約20分間の現場見たまま
picture 後藤徹氏の民事裁判で、公判の傍聴券の抽選直後に、東京地裁玄関前では人だまりができた=4月8日朝 列島を襲った台風並みの暴風雨が駆け抜け、全国的に晴れ上がった週明けの4月8日朝。東京・霞が関の官公庁街では通勤ラッシュが一段落し、東京メトロ霞ケ関駅周辺はひとときの静けさを取り戻していたが、東京地方裁判所の玄関口右脇の一角だけは、ざわついた雰囲気で人だまりができていた。 この日午前10時から803号法廷で開かれる民事裁判の52枚の傍聴券を求めて、100人余りの人が抽選の発表を今か今かと待っていた。9時40分、当たり番号一覧が掲示されると、列をつくった人たちが前に動きだした。当たり券を持った人たちが、地裁玄関口から建物内に吸い込まれて行った。
強制棄教のために12年5カ月もの間、拉致監禁下に置かれた後藤徹氏については、本シリーズパートⅠで詳細をリポートした。その加害に関わった家族、牧師、脱会屋を後藤氏が訴えた民事裁判の第14回口頭弁論が開かれ、原告、被告側双方からの証人が証言する日だ。
原告側証人として出廷したのが山田舞さん。裁判は、前回の法廷で行われた原告本人の尋問に続く「後藤裁判」のクライマックスを迎えた。
これまで強制棄教を狙った拉致監禁で、刑事事件として起訴されたケースはない。ために、その深刻な被害実態が社会一般には伝わってこなかった。それが2008(平成20)年2月に、後藤氏が解放されたのを機に、拉致監禁による強制棄教反対運動に火がつき、4年ほど前に被害者が集って全国組織を立ち上げた。
後藤氏は同年6月に、自身の拉致監禁に関わった人たちを刑事告訴したが、警察の対応は鈍かった。送検されはしたが結局、検察は「証拠不十分」を理由に不起訴処分に。後藤氏は刑事訴訟手続きの再開を求め、東京検察審査会に審査請求を行った。
しかし東京検察審査会は、強制、逮捕、監禁、傷害のケースなのか否かを判断するには疑問が多いとの理由で、不起訴相当の決定を下した。
拉致監禁に使われた錠前などの物的証拠が見つかっていないことが、不起訴の理由の一つだった。後藤氏は民事訴訟を起こし、巻き返しに臨んだのである。
この日、原告側証人として出廷した山田舞さんは、1998(平成10)年5月に、脱会を迫る側の一員として後藤氏の監禁現場を訪れ、立ち会っていた。
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午前10時すぎから、証言台に立った舞さん。
「ドアをトントンと小さく叩き、施錠を解いてもらった元信者に付いて、私が、後藤さんの部屋に入っていくと、すでに(脱会屋の)宮村は、左右に元信者3、4人を従え、うなだれた後藤さんを取り囲むようにして、『おまえは頭が働いていない、思考停止だ、バカだ』と罵倒していました」――。
監禁の現場に立ち会ったのは約20分だった。舞さんは、そこで見たままを静かに証言した。