震災後の東北は学習フィールド
「私大ネット36」、宮城・南三陸町で活動
「課題先進地」と言われる東日本大震災後の東北を貴重な学習のフィールドと位置づけ、私立大学が集結し、互いの専門性を生かしながら研修を行う東北再生「私大ネット36(さんりく)」(事務校=大正大学)が、宮城県南三陸町を舞台に活動を進めている。(市原幸彦)
全国26大学が結集し研修/自身の役割考える場づくり
私大ネット36は、震災翌年の平成24年4月に10年を期間と定め発足。加盟校は大正大学のほか國學院大學、埼玉工業大学、こども教育宝仙大学(この4校が幹事校)など現在、全国26大学が加盟。一般社団法人・南三陸研修センターと連携し、現地での春・夏の休暇を利用した研修プログラムや東京近辺でのシンポジウムなどを実施している。
研修プログラムでは毎回4つのテーマを設け、30人前後で構成する各グループが現地で4日間、企業・団体や住民から直接意見を聞くなどして課題と対策を探る。これまで1500人超の教員と学生が参加した。
研修センターで用意した多彩なプログラムユニットを組み合わせたり、独自のフィールドワークも行う。「物事が変化していく中で出てくる社会のいろんな課題にも焦点を当てながら、学生間、あるいは教員との間で議論し、社会的視野を拡大し、人間として成長していくことを目指します」と大正大学事務担当の佐藤徹明さん。
毎回、加盟大学の教員が講師を分担し、教員の専門と南三陸町の特性に合わせたテーマを決め、参加を募集。東京で、集まった学生に対し事前学習やチームづくりをする。
現地ではまず、行政や企業、専門職の人などからレクチャーを受ける。震災当時のDVDや震災前後の写真も見る。防災庁舎で避難を呼び掛けつづけ犠牲となった女性職員についての話も聞く。「それまでは部活の合宿気分だった学生たちも、自ずと真剣な面持ちに変わります」。
その後、町内の被災現場へ。復興商店街「南三陸さんさん商店街」の見学や、薬草の特産物化、南三陸のPRと地元の雇用創出のため開発されたグッズ「オクトパス君」の製造・販売、漁船に乗ってのワカメやホタテの養殖、山の環境を守る間伐、イヌワシ保護などを体験する。
農家の若者が津波をかぶった土を入れ替えて行っている菊栽培とそのアレンジメントの体験では、農業を株式会社化し雇用を生み出すという常識破りの取り組みを聞く。「学生たちは仕事への熱い思いを受け止めて帰ってくる」(佐藤さん)という。
小学校で児童のサポートを行っている団体と一緒に活動。また、仮設住宅訪問で、震災から数年たった今の気持ちや課題など、心理学などを応用してインタビューし報告書を作成する活動も。
「学ばさせていただくというスタイルで行っています。現地の方にもプラスになっている。震災前はこんな多くの若者が町を歩いていることはなかった、継続してほしい」
その日の活動を振り返る夜のワークショップは、地元の人が真剣に語ってくれたこと、そして感じたことを言葉にし切磋琢磨(せっさたくま)しながら吸収していく場だ。口下手な学生も発言するようになる。
「3泊4日だが、そこから得られるものは大きい。東京の学生で宮城の教員になった者がいたり、現地のNPOに入り込んで活動する学生、昨年の台風で大雨被害を受けた茨城県常総市にボランティアで駆け付け、現地で中心的な役割をはたした学生もいます」
昨年10月末、第3回シンポジウムを東京都内で開催。昨年3月まで副町長を務めた遠藤健治・大正大学客員教授は、基調講演で「被災地はあらゆる社会課題が10~20年前倒しで表面化していると言われている。学生がいずれ地域を担う時代を見据え、いま南三陸町や被災地で学ぶことは大きな意義がある」と期待を寄せた。
設立から4年。課題も出てきた。「各大学の考え方も少しずつ変わってきています。意志統一をきちんとしていくこと。もう一つは、震災当時に中学生だった世代の学生が入ってきていること。被災地に対する知識とか認識は極端に減ってきている。丁寧に学んでもらう必要があります」と佐藤さん。
抱負として「これをきっかけに自分と学びとの関係を考えるようになってきている。学びの意味とか、復興の場や社会での自分の役割を考えてもらう場づくりを継続していきたい」と意欲を示している。