自画像展「自分を見つめ、自分を描く」


幼児から中学生まで過去最多1622点の応募

 水彩絵具やクレヨン、鉛筆、版画、そしてパソコンを使って描いた自分の顔、顔、顔……。金沢市の金沢ふるさと偉人館で開催中の「自画像展―自分を見つめ、自分を描く―」。今回で8回を数え、幼児から中学生までこれまで最多の1662点の応募があった。どの作品も個性的で生き生きとした感性にあふれ、味わい深い。(日下一彦)

今回で8回め、個性的で豊かな発想、味わい深い

金沢市の金沢ふるさと偉人館で開催中

自画像展「自分を見つめ、自分を描く」

大賞を受賞した小学3年の作品。ジャイアンに似ている

 展示作品の一角に、特別ケースに入った10点の大賞作品が並んでいる。5人の審査員が選んだものだ。その中から幾つか紹介しよう。

 小3男児の作品は、漫画ドラえもんに出てくるジャイアンに似た風貌で、どことなく親近感が湧いてくる。絵の解説は付いていないが、「オレ、また失敗しちゃったよ!へへへ」とでも言っているようで、思わず微(ほほ)笑んでしまう。

 同じく小3男児は、あごに手を当てて真剣に考え込む姿を描いた。その背後に「?」マークが並んでいる。探求心が旺盛で知りたいことがたくさんあるのか、それとも悩みごとなのか。見る側はその胸の内を聞いてみたくなる。

自画像展「自分を見つめ、自分を描く」

ミニトマトを口に運ぼうとしている小学3年の入選作

 年長組の幼児の作品は、口を開けて笑う表情をクレヨンで輪郭を描き、表情はパステルで薄く色を付けた。園全体で美術の専門家から指導を受けているようで、濃淡の使い方が独特で、新鮮な印象を与えている。中学2年の女子生徒の作品は、中学生らしいしっかりとした構図で、キリっとした表情が清々しい。背景は青い空に白い雲が浮かび、紅葉に染まる山を遠望して情感たっぷりだ。

 これらの作品は幼児から中学生までの子供たちが自分を見つめ、自分を描いたもの。同館が今年9月から市内のすべての幼稚園と保育園、小・中学校に募集したところ、昨年よりも500点余り多い1662点が寄せられた。全作品を館内一階に展示している。

自画像展「自分を見つめ、自分を描く」

しっかりした構図で大賞を受賞した中学2年の作品

 同展発案者の松田章一・前館長によると、「東京芸術大学では大学創設以来、卒業制作に自画像を描いている。子供たちも自画像を描くことで、自分を見つめるきっかけになれば成長につながるのではないか」との思いから始まった。画材はクレヨンや水彩絵具、鉛筆、版画、パソコンで画用紙に描く。今回ははがきサイズの作品も数十点寄せられた。

 館内に入ると、2歳児から年少、年中、年長組の順に展示。その後に小学校低学年、中学年、高学年と続き、そして中学生の作品で構成されている。応募数では年長組と小学4年生が最も多く、それぞれ300点を越えた。中学生は美術部の生徒が描いたものがほとんどで34点ある。

 年齢順に並んでいるので、成長の跡がよく分かる。最も幼い2歳児では、たどたどしい線で顔の輪郭を描くのがやっと。目や鼻、口の位置が曲がっている。年齢が上がるにつれて、顔の特徴や髪型などを上手に捉え、徐々に観察力が深まっていく。

 小学校中・高学年になると、眠っている顔、驚いた表情のほか、あくびをしていたり、マスクをかけたり、あかんべえをしてみたり、バンザイをして喜んだり、逆に悲しい表情など、思い思いに筆を走らせている。それに丸顔、小顔、角ばった顔に面長の瓜実(うりざね)顔あり。中には、あえていびつな顔にして個性を強調した作品など、子供の豊かな発想に感銘を受ける。おとなしい性格が連想されたり、明朗活発な姿や茶目(ちゃめ)っけたっぷりの気性などもうかがえ、自画像展の意図が伝わってくる。

 展示作品の中に、赤いシールを貼った入選作がある。大賞を選んだ審査員の金沢美術工芸大学の前田昌彦学長、金沢21世紀美術館の秋元雄史館長、金沢市の野口弘教育長ら5人が、幼児・小学校・中学校の部門別に421点を選んだ。

 入選作の中に、「これは!」と思う作品が1点あった。小3男児が描いたもので、スプーンにミニトマトを乗せて口に運ぼうとしている。食事は楽しいはずだが、表情が怒っているようで険しい。「ミニトマトが嫌いなのかな?」「親に無理矢理食べさせられている?」など、いろいろ連想してしまった。同時に、そんな表情をよく描いたなと、その大胆さにも関心させられた。同展は1月24日(日)まで。入場無料。