ギャラリーは「大森山動物園」
秋田公立美術大学がコラボ
秋田市の大森山動物園(小松守園長)を舞台にこのほど、秋田公立美術大学の学生たちによって動物の大壁画や彫刻などが展示された。同園にとっては平成19年から行われている同大との協力活動。一方の学生にとっては実地学習の場となった。同園は新しい動物園像を目指す。(伊藤志郎)
新たな動物園像目指しアート展示
通路には鳥や獣の足跡が点々と並び、資料館の大きな壁にはキリンやゾウなどの動物達がにぎやかに描かれている。自動販売機コーナーの屋上には動物型の椅子(いす)が幾つか並び、ピクニック広場には1㌧前後もする石の彫刻が来園者との触れ合いを待つ。園内の随所に新しいオブジェが誕生し、楽しみが増えた。
アートプロジェクトの名称は「大森山Arts(アーツ)&Zoo(ズー)」。造形には、1年から4年までの美大生約30人と、美大附属高等学院約30人、秋田県立栗田養護学校の生徒たちが参加した。オープン初日には、キリンやクマなど動物をかたどった帽子が来園者にプレゼントされ、学生が作った案内パンフレットが配られた。
小松園長は「動物園をギャラリーに見立てて、楽しい動物園を作りたいと企画した。大学に相談すると、『一緒にやりましょう』と快諾していただいた。動物園は生命の博物館と言われる。大学だけでなく、高等学院や養護学校、地域の人たちとの関わりへと広がってきたし、園内にはアートの感性が差し込まれ随分と変わってきた。新しい動物園像を作り上げていきたい」と、プロジェクトへの期待を語った。
一方、藤浩志同大教授は「社会貢献の一環として、地域と一緒にやれたのはいいことだ。大学の授業に取り入れて行ってきた」と話す。
学生は五つのグループに分かれ製作に取り組んだ。男性リーダーの一人は「4月中旬から取り組んできた。5月には現地を視察し、作品のプレゼンテーションを行った。製作を始めたのは7月中旬から。8月から9月にかけては朝10時から遅いときは夜11時までかかった。ものすごく大変でした」と語りながら、充実した表情を見せた。
資料館とミルヴェ館裏の大きな壁面に動物を描いたのは美大生7人と高等学院3年生13人。見るだけでなく、一緒に写真を撮ると一つの作品になるような「トリックアート」に仕上げた。マーコールの隣の壁にも高等学院1、2年生19人による楽しい絵が描かれた。
また、ピクニック広場には女子大生による3個の大型彫刻が置かれた。「卵の殻のような割れ目から生まれる、生命の始まりの形をイメージして作りました。卵、種子、胎児のような感じです。三つとも数百㌔から1・5㌧の重さの男鹿石を使いました。抱きついてもいいし、来園者が触れ合って始めて完成する作品です」と、女子学生は製作意図を話す。
大人の手を回しても届かない大きい作品なだけに、子供だけでなく大人にとっても思い出になりそうだ。
広場の周囲には、鳥を放し飼いにしていた大きなネットを取り外した高さ13㍍の8本のポールの上に、ゾウやミミズク、チンパンジーなどの像が設置された。「思い出となる景色を作ろうと思いました。目の色が見る角度で違うように、一体一体目に加工をしました。園内の命あるものたちを温かく見守るようにしました」と、美大生は工夫した点を説明した。
大森山動物園は昭和48年に開園。広い公園内にあり、中に塩曳潟を持ち、全体が緑に包まれている。ライオン、ツキノワグマ、キリン、ゾウなどの大型動物から、ヤマアラシやミーアキャット、ツルやフラミンゴ、クジャクなどの鳥類、ペンギン、ウサギ、ヒツジ、トナカイ、ラクダ、サル山など108種類、600点を超す動物がいる。
園内を回ると、オルゴールの音楽が流れ、木々の葉のすれる音、動物の鳴き声などが響く。ふれあいランド、ピクニック広場、大型遊具など親子連れで楽しめる仕掛けがふんだんにあり、市民の憩いの場となっている。そこに新しいアートの作品が加わった。
ゾウやキリンの足跡などを通路に描いた美大の女子学生は「各エリアにいる動物の足跡を使って、そのエリアのポイントや、自分たちが実際に歩いてみて楽しい表現ができるような場所に足跡をつけました。『これは何の足跡?』と親子のコミュニケーションにつながればと思います。図鑑を見ても分からない所は飼育員に生態はどのようなものか聞いたりもしました。いつもより動物の姿や息づかい身近に感じてもらえればうれしいです」と語った。