人権教育によるいじめ防止

「ユース・フォー・ヒューマンライツ」 生地真矢子さんに聞く

理解により自分との「違い」を克服

 いじめを苦にした子供の自殺が後を絶たない。校内暴力も小中学校で増えており、子供の人権意識や他者への共感を育むことが学校教育の大きな課題となっている。人権尊重の啓発に取り組む非営利団体「ユース・フォー・ヒューマンライツ ジャパン」(YHR)の生地真矢子さん(42)に、いじめ問題を中心に、YHRが行っている出前授業などについて聞いた。(森田清策)

知識と責任感が良い行動生む

人権教育によるいじめ防止 理解により自分との「違い」を克服

「ユース・フォー・ヒューマンライツ ジャパン」の生地真矢子さん

 大阪大学人間科学部で教職の免許を取得した生地さんは2001年から12年まで米国フロリダに住み、カウンセラーを務めた経歴を持つ。そこで人権侵害の深刻さに直面。12年冬に帰国して、YHRの活動に参加した。

 本部を米国ロサンゼルスに置くYHRは世界80カ国200支部を抱える。日本では2004年から活動を開始。生地さんは現在、代表代理を務める。

 授業は、小中高校だけでなく大学でも行う。大学では、英語と人権を同時に学ぶユニークなプログラムも実施。教育関係者を対象にしたり、キャリア教育の一環として授業を行ったりすることもあり、活動は幅広い。

人権教育によるいじめ防止 理解により自分との「違い」を克服

大阪府内の中学校で行った出前授業

 授業内容は学校の要望に合わせて作られるが、DVDや小冊子を使うなどして、1948年に国際連合によって「世界人権宣言」が起草されるまでの歴史や、同宣言30項目の内容を紹介。また、マハトマ・ガンジー(インド)、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(米国)、ネルソン・マンデラ(南アフリカ)など、偉人の言葉に触れてもらって、人権意識の向上に努めている。

 生地さんによると、近年多いのがいじめや、児童・生徒のリーダーシップ欠如などに懸念を抱く学校。このため、「差別をうけない権利」(世界人権宣言第2条)、「責任」(同第29条)の項目を取り上げながら、具体的にどう対処するかを、討論やドリル(実践と理念を結び付ける練習)を通じて学ぶ構成が増えている。

 いじめを考える場合、まず大切なのは、いじめを起こす感情がなぜ起きるかを理解すること。生地さんは次のように説明する。

 「まずいじめの感情がなぜ発生するのかというところを理解する必要があります。『あの子は派手なランドセルを持って自分と違う』というような意識は、『自分と違う人間なのだから何をしてもいい』という感情につながるのです」。このため、いじめをなくすには「自分と違う」という意識をどう乗り越えるかが一つのカギになる。

 そこで生地さんが強調するのは理解を深める作業。「自分が理解しているものに対して、人は攻撃しません。たとえば、理解しているお母さんにはやさしくできるけど、まったく理解できないお父さんには冷たくしてしまうとか」。

 では、理解を築くためには何が必要か。理解の構成要素は、真愛の情(アフィニティ)、現実性(リアリティ)、コミュニケーションの三つだという。「それぞれの頭文字をとって、私たちはARCトライアングルと言いますが、このトライアングルが大きくなればなるほど、理解も大きくなります」。

 車を例に説明しよう。車とは何かについての理解が欠如すれば、車体を傷つけることが問題行動だと思わないこともある。しかし、車について誰かから聞いたり(コミュニケーション)、見たり触ったり(現実性)すると、車に乗ってみたいという思い(アフィニティ)が湧いてくる。いじめを生む差別感情も、コミュニケーションを取ることで他の二つの要素も出てきて、解消される。「いじめは良くない」と、ただ押しつけるだけでは、いじめはより陰湿になる恐れがあるので注意が必要だという。

 最後に、生地さんは日本の人権教育が実を結ばない原因について、責任意識の歪(ゆが)みがあると指摘した。

 「そもそも責任とは言われたことをやるだけの受け身な態度では培われません。自分自らが物事を創り出す原動力であることを認めることによって責任感は生まれます。また、責任を取るには知識を必要とします。責任感と知識があれば、次に良い行動が生まれます。人権に関する知識を広めると同時に責任感も喚起することで、私たちは社会に違いを生み出していくことが出来ると考えます」